外伝 KONRON 編


2002/06/12 Wed
 新月がすぎた月は鎌の刃のような鋭い輝きをみせはじめていた。地上8千メートルから見る “KONRON”の雪をいただく山々は存在の神秘な美しさをたたえていた。
 “スマートボーイズ”は上昇気流をとらえて斜面すれすれにゆるやかな滑空をくり返していた。
「確かこのあたりだろう?!」
 パイプをくゆらせ、片目の髭面男が言った。
2002/06/13 Thu

「あれから1年だね...。」
 壁面を目で追いながら野性化した会長が言った。
 鼻のしっぽは相変わらず不随筋のようにクルンクルンと勝手に動いていた。
「ココレレの首がこの"KONRON"に出現したというのはホントか?」
 片目で髭面の男のパイプの顔が喋った。おとこはマスターオブレンテ、パイプは“M”だった。

2002/06/13 Thu

 あたりは最後の残光が山々の山頂を照らし、真紅から紫と信じられない色にみるみる変わった。“スマートボーイズ”はまるで止まっているようにゆっくりと留まったかと思うと、斜面にそって大きく旋回したりした。
「こんなとこでいったい誰が見たってんだ?」
 マスターオブレンテが言った。
「うわさ、うわさだよ。」
 “M”のパイプの顔がクールに目を半分閉じて言った。

「ヒホ〜、んでもこんな感じでシラブるのは、おら、なかなか好きだな。」
 “スマートボーイズ”をシラブルフレーズで操縦してるパンロゴが言った。
「ん〜、いい感じス、パンロゴ、ミー達にもやらせて!」
 タコのスケハチ、ハチローが声をそろえて言った。

2002/06/14 Fri

「あ!?あそこ!あれは何だろう?!」
 会長が突然声を上げた。
 指し示すところに黒い正三角の穴のようなものが出現した。そこへ至る直線の滑走路様の半透明な誘導路が延びて、あたかも“スマートボーイズ”を招き入れるようなブルーの点滅が起っ た。
「おいおい、出来過ぎだぜ?!どうする」
 マスターオブレンテが言った。
「ふふ、こういうのに乗るとこがキャプテンのいいとこだ!冒険は買ってでもしろだ。」
 “M”が言った。

2002/06/17 Mon

「チャプテン、これ、霊界への出入り口かもしれませんでシュ。」
 スケハチが言った。
「“KONRON”にはときどき出来ると、“亀爺”から聞いたことあるでシュ。」
 ハチローが言った。
「シピン、シピンパかめじじい?!なんだい?それってパピンパピン。」
 パンロゴがシラブりながら言った。
「亀爺は万年デチ、鶴爺は千年デシュ、...仲の良いライバルなのヨ。動物界の長老物知りなのよでシュ。」
 ハチローが言った。
「でも、どつきあって2人そろってよくスベって転ぶでシュ。するとなぜか“KONRON”に穴ができるのデシュ。」
 スケハチが言った。

「で、...後ろの正面があの三角か?!...わからねえ。」
 マスターオブレンテがぼそっと言った。

「???おお、?!カゴメですね!?」
 会長が言った。

2002/06/18 Tue

「オラわかったぞ!これって“ポラリスロ−タ−現象”のことだあ?!」
 パンロゴがおもわず叫んだ。
「ほっ、ほっ、そのとおり〜!」
 どこかからしわがれた声がした。それは足の裏から昇って来る感覚の不思議な響きだった。
「ゲ、?足がしびれちゃったよ!?...あ、!あそこ、雲に乗ってる?!」
 パンロゴが“KONRON”のほうを指差した。

2002/06/19 Wed
「カゴメ、カゴメかごの中のとりは、...。」
 雲に乗った老人がしびれるような声で歌った。
「うしろの正面だ〜れ!」
 もう一人の長身の赤い帽子の老人が鶴のように叫んだ。
「うわ?!亀爺に鶴爺でしゅ!!」
 スケハチ、ハチローが声をそろえて言った。

「お?!ワシのせりふをとるな!ツルめ!」
 亀爺がどついた。
「なんじゃい?!これはワシのきめどこじゃい!カメ!」
 鶴爺がどつき返した。

「わわわ?!これは!...すべるでしゅ〜!!」
 スケハチ、ハチローが声をそろえて叫んだ。
2002/06/21 Fri

 ツルとカメが目の前でつるりんと同時にスベった!
「うわ!?オラたち後ろの正面だあ〜!?」
 パンロゴが飛び上がって叫んだ。
 一瞬空間が真っ白にスパークして、“スマートボーイズ”はとてつもない閃光に包まれた。
「霊界の入り口てえのは随分ハデなもんだな?」
 パイプの顔が半眼を開け言った。
「はは、なんでもけいきよくブッパなすほうが好みだぜ。」
 マスターオブレンテがプァ〜と紫煙を吐いた。

“スマートボーイズ”はあふれる光の中を突き進んでいった。

2002/06/21 Fri

 パンロゴ達は眩しくて目を開けてられない空間から、2羽の大きな鳥が向かい合う不思議な明るさの場所に出た。いつの間にかパンロゴの手には“スマートボーイズ”が圧縮され、ガラス容器に携帯されていた。
 そこの場所はクリスタルのような面が幾何学的に反射、透過をし、不思議な明るさをつくり出しているように見えた。そしてその向こうの薄明るい空を見ると、無数のゴマ・フートがあたかも回送列車が車庫に入るように整然と漂うのが見えた。

2002/06/24 Mon

 あらためて眺め回すと、このまぶしいほどの空間の明るさがどこからきているのかパンロゴには不思議に思えた。
 しかし、だんだんと馴染んで来るにしたがい空間そのものが輝いているように見えた。さらによく観察してみると、光の色が微妙にちがう楕円状の単位が群れて輝いているのがなんとなく見えるような気がした。一つの大きさは、ほぼ人が手を広げたほどの大きさでわずかに動いている。20〜50コが一つの群れをつくり、その数はえんえんと彼方迄続いて空間を埋めていた。

「なんだあ?なんとまあ、きれいだあ!オラはじめてみるぞこんなの?!」
 パンロゴが叫んだ。

2002/06/25 Tue

「この光の輝きひとつひとつがたましいだぞ...。」
 パイプの顔がつぶやくように言った。
「驚いた!これはいのちか?」
 マスターオブレンテが言った。
「チャプテン、実体も輪郭もはっきりしてないでしゅ、これはクラゲに似てますでしゅ。」
 スケハチが言った。
「海底から見上げたクラゲの群れに似てるでしゅね〜。」
 ハチローが言った。
「こりゃ一種の“タマゴ”の状態なのかもしれねーな。いずれにしても空間そのものがいのちだよ。」
 会長が言った。

 そのとき突然、いままでモニュメントと思っていた向かい合わせの巨大な2羽の鳥が、信じられない大きなはばたきで飛び立った。

2002/06/25 Tue

「うわあ?!オラ驚きだ!ホンモノの鳥だあ〜?!」
 パンロゴが飛び上がって驚いた。
鳳凰を思わせるその大きさと優雅なはばたきは、飛行した光る空間の中に、ひと際彩を放つ見たこともない輝きの粒子の尾を引いた。
「ああ、凄い、凄いや〜!」
 会長が呆然とつぶやいた。

2002/06/25 Tue

 2羽の鳳凰がとてつもなく大きな円を描きながらゆっくり上昇した。

 と、そこに丁度いのちの空間と摩擦して出来た火花のように光る粒子の大螺旋が生じ、何事かが起る気配がせまった。

2002/06/28 Fri

 みるみるその粒子は霧雨のようにあまねく大地に降り注いでいくと、そこから七色の若葉のようなものが発芽し、いのちが芽生えた。
 しかし何事も起らなかった。

「これが“KONRONの霊界”か?」
 パイプの顔が半眼を開いた。
「ドラマってもんがねえな?!俺はちょっと不満だぜ。」
 紫煙をくゆらせてマスターオブレンテが言った。

2002/06/28 Fri

「これは、“イーチングラス”じゃないでしゅか?」
 ハチローが言った。
「あっ!?チャプテン、ほんとでしゅ!謎の植物と言われていながら誰もまだ見たことないものでしゅ!亀爺のメデシン図鑑に載ってるでしゅ!」
 スケハチが言った。

2002/07/01 Mon

亀爺所有、「メデシン図鑑」 “イーチングラス”
解説 図版有り

 “イーチングラス”とは世にもまれな植物で、その全貌は謎につつまれたままだ。原産地は謎の霊界エリア“KONRON”にあると言われている。植物とは思えない不思議な働きを持っているらしい。知られている形体は双葉で、透明感が有りオーラそのもののように輝き虹色をたたえる。
 世に言う“出来事”に深いかかわりがあるとされている。

2002/07/02 Tue

「しかし、ハチローよ、これじゃまるっきりわからないぞ。」
 パイプの顔が言った。
「書いたやつも、どう使うかはわからんのだよ。」
 マスターオブレンテが言った。
「へへ、俺を見ろよ!こうするんだよ!」
 しっぽの鼻を振り回しながらかがみこんでいた会長が言った。
 なんとその頭には“イーチングラス”が乗ってた。
「こいつが言ったのさ!」
 会長のしっぽ鼻が勝手にブンブン降り回った。
 おどけて会長は自分の鼻を指差した。

2002/07/03 Wed

 会長の頭に乗せたイーチングラスは、驚くべき速度でぐんぐん成長を始めた。現実の実体感ある存在の殻を破り光の波動そのものの束になった。さらに輝きと透明度を増すほどに天空に光の太い束を伸ばし、晴天の雷音のように何ものかにつながった衝撃が空間に走った。
 会長の鼻のしっぽは凄い勢いでぶんぶんと回り続けた。
 同時に、これを見届けたようにあたりのイーチングラスは徐々に消えはじめた。

2002/07/04 Thu

 光の束も同時に透明になり、やがて見えなくなった。
「...満タンです。」
 会長がゆっくりと言った。

「会長?!しっかりして!目が遠いよ、大丈夫ですか〜!?」
 パンロゴが言った。
「あ〜っ?!...手持ちの“出来事”全部持って行かれたよ!?」
 会長が夢から突然覚めたようにポケットをたたいて言った。
「え〜?!なんでしゅ?!手持ちの“出来事”って?」
 スケハチが言った。
「俺の記憶の一部だよ。まあ“現金”みたいなもんだ、俺の経験の大事なものは現金化してないからな。あのイーチングラスは“人生の出来事”と“霊界エネジー”の換金システムだよ。
ほんとは“預金”のほうが欲しいんだろうけどな。全部もってかれそうになったけど、...俺の鼻のしっぽが交渉して俄然阻止してくれたから助かった!」
 会長が言った。

2002/07/04 Thu

「会長よ、てことは、おめーさんの経験したことはなくなっちまったてことか?」
 マスターオブレンテが言った。
「イヤー、記憶は在るよ。そうだな、“起ったこと”、つまりVTRカメラに例えれば、撮った映像の“その瞬間”の編集テープを換金しちまったってことかな。生テープと自分の記憶や印象はそのままあるようだけど。」
 会長が記憶を内省しながら言った。

2002/07/05 Fri

「マスターオブレンテの言った"KONRON"の退屈さ加減って、これだったんだね!霊界"KONRON"でもっとも価値あるものはドラマの“経験エナジー”なんだな!」
 会長が言った。

「会長よ、おめー代わりに“満タン”になったらしいが、なんでえ?それ。」
 マスターオブレンテが言った。

「あっ、“霊界エネジー”ってのは成仏する力ですよ。つまりは“フィルター能力”みたいなもんでしょう。質の高いエネジーは純化して、もう変化することはなくなって魂そのもの自体になっちゃう、つまり果物みたいに熟れちゃうんすね。これはもう誰かが食ってくれないことにはこまる、こうなった魂は死ぬってことないんですから。」
 会長はスラスラと答えた。

2002/07/08 Mon

「てことは会長は成仏しちまったてことか?」
 マスターオブレンテが言った。
「普通は成仏するとは“命がない”と言うことを差すけどね...。どうやら俺の“経験”だけ持って行って命はそのままって言う不思議なことになるね。少なくとも死んじゃいねえや。“霊界エナジー”が“満タン”てことは霊界走行が可能ってことだよなあ...。いったいどこまで行けるのか...!」
 会長がしっぽの鼻をブンブンさせて言った。

2002/07/08 Mon

「分かりにくいな、つまりおめーは生きてるけど霊界の深いとこまで好きなように動けるってことか?」
 マスターオブレンテが言った。

「そうでしゅ、そういうことでしゅ、チャプテン。 ただ、会長は中間意識層の経験をイーチングラスにとられちゃったでしゅね、それで普通の記憶がないので、すべて深い記憶を掘り起こさなければならないでしゅね。 そこのスローになった領域を“しっぽの鼻”がうまくカバーに入りましたでしゅ。」
 いまや博覧強記のハチローが代わりに答えた。

「そう、まるでブラジルサッカーだな...!」
 会長が言った。

2002/07/10 Wed

「ハチローよ、それで、その“霊界”ってのはどこにあるんだい?俺達も行けるのか?」
 マスターオブレンテが言った。

「チャプテン、亀爺の本によれば、“霊界”はここ地球に同時に存在しているようでしゅね。ただエネルギーのあり方が全く違うのでしゅ。」
 ハチローが言った。
「チャプテン、そのエネルギーのあり方を合わせるやり方、知ってるでしゅ!たしか鶴爺の本“大KONRONのリズム”にありましたでしゅ!“ハチャチャ”が要りますでしゅ。
“ハチャチャ”は、3種類の違うベルで、ある拍子の、違うリズムを同時に鳴らしましゅのこころでしゅ!」
 スケハチが興奮して言った。

2002/07/11 Thu

「チャプテン!西アフリカのガーナにエウェ族という人たちがいて、そこに“アジダ”という神聖なリズムがあるでしゅ。その中にベルだけでやる“ハチャチャ”のリズムがあるでしゅ!」
 ハチローが言った。

「あっ!?オラ、“アジダ”なら知ってるぞ〜!? アクアバからビデオ見せてもらった!
そうだ!...ベルだけで踊ってるとこあったな〜。やってみる〜?」
 パンロゴが言った。

「おお!さすがおめーの国の事だ、で、どうやるんだ?」
 マスターオブレンテは、もうその手にガンゴギのダブルベルを持っていた。

「じゃあやってみるよ。オラともうひとり、会長...アトケのベルやってくれる?たしかアバジャのベルパターンがベースだよ。 そこに16/3拍子と16/4拍子がこんな風にかさなるんだな、これが。」
 パンロゴは大きいガンゴギを手にゆっくりとサンプルのリズムをたたいた。

2002/07/12 Fri

 まず会長のアトケーがゆっくりとアバジャのベルパターンを鳴らした。“カンカンカカ、カンカカカ...”それは“KONRON”の空間にしみ込むように、ある悲し気とも言える緊張を走らせた。

 続いてそれに乗るように、マスターオブレンテの3拍子のガンゴギが、非常にゆっくりと“ゲ、ゲ、ゲ、”と入った。
 するとたちまち空間はうごめき、有機的な変化を見せ始めた。

 同時にパンロゴの大ガンゴギが“ン、ゴン、ゲゲン、”と入った。
 パンロゴ、マスタ−オブレンテ、会長、のゆっくりした3つのベルが“KONRON”に染み渡るように響いた。
 と、そのとき、...その場のみんなが突然よろけた!?

 グルンと何かが1回転したような気がしたのだ...?!。

2002/07/14 Sun

 あたりいちめん鼻をつままれても分らない闇だった。
自分達の足元すら見えなかったが、そこにみんなの気配はあった。
「おい、真っ暗だな...。」
 マスターオブレンテが言った。
「なんだかそこで足音がゾロゾロ聞こえるけど?...?」会長が言った。
「キャプテン、会長、もう少し“ハチャチャ”をゆっくりにしてみて。」
 パンロゴがテンポを落としながら言った。

 すると現像液から像が浮かびあがるように、闇に人の歩く姿が目の前に浮かんできた。多くの人達がゾロゾロと同じ方向を歩いていた。
 子どもや男、女、老人、その虚ろな表情は妄念と化していて身の毛がよだつ光景だった。
「おい、やべーな...。こりゃ、ゾンビだぞ...。」
 マスターオブレンテが言った。

2002/07/15 Mon

「げげげ!?ゾンビだあ!ゾンビって死体が墓から出て来るんだよね、こんなにいっぱい?!オラなんか悪い夢でもみてるようだぞ。」
 パンロゴが目を見開いたまま言った。

「この“ハチャチャ”にひかれて墓を出て来たのさ。こいつらもこのリズムを聞いちゃ、黙って寝てられないのさ。ハハハ、こりゃ正真正銘の盆踊りだ!ほら、踊り出したぞ。」
 パイプの顔がクールに言った。

「チャプテン!恐い顔してみんなよろこんでますでしゅ!」
 ハチローが言った。
「ひえ〜!?恨みを残してもたのしいんでしゅね?!やっぱち!」
 スケハチが飛び上がった。
「わははは!妄念と踊りはくさい関係ってこった。はは、オレ達も一緒に踊っちまえ!」
 マスターオブレンテを先頭にみんなはゾンビの“ハチャチャ”のダンスに加わった。

2002/07/16 Tue

 ゾンビダンスときたら、そのひょうきんな動きと異様さで右に出るものがなかった。
「こりゃすげー!こいつらのノリはただもんじゃないよー!?」
 パンロゴが踊りながら叫んだ。
「チャプテン!動かない死体が踊るって矛盾がいいんでしゅね!」
 スケハチがタコの手踊りで言った。
「まっったくだな!」
 渋いダンスでマスターオブレンテが答えた。

 暗闇をバックに、これだけの数のゾンビ、まるであやつられるマリオネットのような動きは、見るものを息を呑むほど不思議な気分にさせた。

2002/07/17 Wed
 “ハチャチャ”が最高潮に達したそのときに、突然暗闇に花火が打ち上がった。
 どの顔もパ〜ッと一瞬華やいだ。おそらくこれほど無気味さと美しさの極みはなかった。思いを残して死んでいった女、人知れずのたれ死んだ男、不慮の死をとげた子供。見放され誰にも知られず死んだ老人、殺された女、事故で死んだ男、...。
 ボロボロ、ずたずたの腐りかけた、これらの死体が一瞬自分の生を肯定するかのように輝いたのだ!

「う〜む,"KONRON"もなかなかやるな。」
 パイプの顔がはっきりと目を開けた。
2002/07/23 Tue

 なまあったかい闇には、いつの間にかレモンのような月が上がってた。

 そのトロピカルな闇の下、ときどき猫の目のようにクリンと光ながらこちらに飛び跳ね向かって来るライトがある?!遠くにルンルンとエンジン音がこだました。
 バスだ?!バスは生き物の様にグルグルいって、すぐ近くまできた。
 行き先のネームには“あの世”とあった...。
 ボンネットバスが止まると、開いたトビラにゾンビはゾロゾロと乗り込んだ。
「おい、これに乗らない手はねーぜ?」
 マスターオブレンテがニッカリ笑ってウインクした。

2002/07/24 Wed
 ゾンビやパンロゴたちをぎゅうぎゅうに詰め込んだおんぼろバスは、とびらに車掌がぶるさがったままビィ〜と警笛を鳴らすと発車した。
 運転手は愛想のいい太った男で、ラジオから流れるレゲエで鼻歌をうたっていた。
「みんなおいらの歌きいとくれ〜ィ。イエ〜ィ、お〜れたちゃ地獄のドライバ〜よ、クルクルクルと、軽いハンドルさばきだてじゃな〜イ、ホゥホゥホゥ!」
「ん〜?いいね〜!ブラザーァ!いけてる歌じゃねえか〜ヨ?!」
 会長がそば耳をたてた。
2002/07/25 Thu

 バスは目一杯アクセルを空けていたがスピードはノロかった。大きなサークルに差しかかるとゾンビは半分降りたが、降りた分以上に乗ってきて再び満員になった。ここからは舗装路になり市街地を通り抜け、やがて海に出た。

「おい?こりゃ海に出たようだぜ?」
 マスターオブレンテが言った。

 バスは海岸線のバラックづくりの店がずらりと並んだ、とある1軒のショップの前で止まった。
「ここが“あの世”とも思えないね?しかしアリャなんだい!?」
 会長が店を指差して言った。

 2階のバルコニーには、なにかユーモアにみちた奇怪な形のものがこちらをのぞくように置いてあった。
 ナメクジのようなもの、真っ赤なとうがらし、キャデラック、金飾りの付いた黒いハイヒール、楽器のようなもの、すべてが同じぐらいの大きさだった。
「あれですかい?へっへ〜っ、棺桶でさあ〜。」
 バスの運転手が言った。

2002/08/14 Wed

「へ〜!こりゃあおもしろい!俺もこんなのがほしいね。」
 赤いトウガラシの棺桶に近寄って、蓋を開けながら会長が言った。その瞬間しっぽの鼻がブンブンとうなりをたてた。
「しばらくだったな、会長。」
 開いた棺の隙間から、腹に響く声が聞こえた。棺の中に鉄仮面のヌーヌルの顔があった。
「げげ?!ヌーヌル?!」
 会長は2、3歩飛び退いて叫んだ。
 トウガラシの真っ赤な蓋が大きな音でずり落ち、ヌーヌルが上半身を起こした。

2002/08/15 Thu
「まてまて、お主ら、そう殺気立たなくてもいい、ワシの話を聞け。」
 ヌーヌルが棺桶からおもむろに立ち上がり言った、棺から出たヌーヌルの身体は見上げるほど大きくなった。
「“KONRON”はワシらのテリトリーじゃ。ワシはココレレの首がどこにあるか知ってる。」
 ヌーヌルが言った。

 

 

2002/08/19 Mon

 「おい、ヌーヌル!ふざけるねい!お前だって、ココレレの首は咽から手が出るほど欲しいだろうに?」
 マスターオブレンテがコルトの安全装置をはずしながら言った。

「ははは、図星だ。ホントのとこを言おう、ココレレの首はワシの苦手な場所に在るので手が出せん。“KONRON”でも奥の又奥、謎の秘境“猿の王国ラゴリン”というとこに在る。ワシは猿が大の苦手なんじゃ。それで一計を案じた。お前達を入り口近く迄案内しよう、お前達がココレレの首を手に入れてからじゃ、ワシの仕事は。」
 ヌーヌルが言った。

「なんて野郎だ!?はははっ、だが俺達にとっちゃそれは願ったり叶ったりだぜ。 だがよヌーヌル!俺たちからココレレの首を奪えるかどうかは保証しねえぞ!?」
 マスターオブレンテが呆れ返って言った。

「ワハハハ!それまでワシは手出しはせん!ワシの偉大な力を貸そう。」
 ヌーヌルが誇らし気に胸を反らして言った。

2002/08/20 Tue  

「この棺桶どもは、お前達をラゴリンまでの道のりを案内をするだろう。」
 ヌーヌルが言うや、赤いトウガラシの棺桶、黒塗りキャデラックの棺桶、なめくじモンスターの棺桶、太鼓の棺桶がうごめき、ジリジリと一斉に一つの方向を向いてスタ−トラインについた。
「ワハハハ!さあ乗れ!うまくラゴリンまで行ける幸運を祈るぞ!ワハハハ!棺桶ども、頼んだぞ!」
 ヌーヌルが言った。

「おれも乗せてってくれ〜!」
 様子を見ていたゾンビトロトロの運転手ジョージが大口あけて叫んだ。

 その瞬間、ヌーヌルはその場からかき消えるように居なくなっていた。

2002/08/21 Wed  

 棺桶はいつのまにか縦乗り2シーターの乗り物風になっていた。突然、真っ赤なトウガラシの棺桶が不思議な言葉をシェケレのような音質でシャカシャカ喋った。しかしなにを言ってるのかさっぱり解らない。
「誰だ?こんな微妙なシェケレ振るのは?」
 パンロゴが言った。
「これはランゲージでしゅ、赤トウガラシは“マスターオブレンテ、タコの兄弟はオレに乗れ”と言ってましゅ。」
 即座にハチローが同時通訳した。
「チャプテン、これはカラバシ語の特殊な方言でしゅね。」
 スケハチが頭に手を当てて思い出すように言った。
「おお、タコのあんたの手はそれだな?」
 そばにいた運転手のジョージが大口開けて驚いたように言った。
「???チョメです〜!」
 スケハチがしおれて言った。

2002/08/23 Fri  

「どさくさでオレっち来ちまったが、よく見たらあんた、パンロゴだべ?!」オニャンコポンが前の席を覗き込んで言った。
「あれ?オラそんなに有名かあ?」
 パンロゴがポ〜ッとはにかんで言った。

「あんりゃ!ラバディビーチ近辺じゃオメ、知らねもんねえど。この棺桶のモデルはアンタだよ!ジャパンでの活躍は評判だあね、今売り出しのドクターヒデヨ・メゴチに並ぶお人さね。」
 オニャンコポンがグリグリ大きい目を動かして言った。

「おうおう!スシ食いねえ!酒呑みねえ!ありがたいね〜オラそんなに有名だったか!...で、そのヒデヨ・メゴチって誰?」
 パンロゴが言った。
「はるばるジャパンから来て不思議な力で人助けをして下さるえら〜い先生さね。」
 オニャンコポンが得意そうに言った。
「ヒデヨ・メゴチねえ...、どこかで聞いたような...。」
 パンロゴは、ない脳みそを絞られるような気がした。

2002/08/27 Tue  No.41 "KONRON"

 棺桶はジャングルの上空、ときには中、を大きな曲がりくねる河に沿って飛行を続けた。
 まるで、自然や森、部落の精霊の世界を1里塚のように訪れながら承認を乞うようなルートは、理性を越えたハイウェイをグングンと走り抜けているようだった。

「なんだか、こうしてると出合い様いろんなモノが見える気がするんだな〜...。だけど焦点を合わせると見えなくなっちまう!怪しいなあ...、ジョージ、見える?」
 会長が言った。
「なんのこと?じぇ〜んじぇ〜ん見えましぇ〜んが!?」
 ジョージが鼻をほじりながら大口を開け答えた。

2002/08/29 Thu  

「俺達は"KONRON"にいるんだよなあ?なのにゾンビ以来どうもアフリカくせえ。いや、絶対西アフリカだぞ、ここは!間違いねえ!"KONRON"は西アフリカか?...それとも霊界西アフリカってことか?」
 マスターオブレンテが言った。

「もっとも霊界は現実世界とダブッてるからな、不思議はないぞ。」
 パイプの顔が目を開いた。

「チャプテン!わたくし思うに地球のエネジーのツボが在って、エネジーが凄い勢いでまわってるんじゃないかと推測してるしゅ。」
 スケハチがマスターオブレンテの肩から覗き込んで言った。

「地球は生きてるでしゅ!」
 同じくハチローが力強く言った。

002/08/30 Fri  

 やがて砂漠に出ると4つの乗り物は猛烈な砂嵐の洗礼を受けた。容赦ないブリザートに一時退避し砂漠に埋まると、砂嵐の過ぎるのを待たざるをえなかった。

「チャプテン、静かでしゅねえ。埋まってからどのぐらいたつでしゅかね?」
 スケハチが言った。
「ホントに死んだようでしゅねえ!ワホ!棺桶だから埋まってもいごこちイイでしゅ!」
 ハチローが言った。

「わははは!まったくだ!コイツはなんと言っても本物だからな〜。」
 マスターオブレンテが赤いトウガラシの中で大笑いした。

「オレには解らんがね、...きっとほんとの死もこんな感じさね。オレはしばらくやすらかに眠らせてもらうぞ。」
 パイプの顔が目を閉じた。

2002/09/02 Mon

 すべてが眠りについた。

 時間というものがなにもかも棺桶の中で溶解させた。あたかも屍体がジャングルの掃除人、ゴミ虫などによって持ち去られるのに似ていた。
 意識のバラバラになった断片は主体のないものに持ち去られ、あらゆるものに変化し分解してちりじりになった...。

 しかし一方、同時に、ある統合と関係は信じられない在り方で別次元で再編され、リフレッシュしたかに思えた。

 “あるとき”マスタ−オブレンテ達は1本のトウガラシの“木”になっていた。

 真っ赤なトウガラシの実は言った。「俺は辛いぞ!」

2002/09/02 Mon

 辛いという声が空をすばらしい紺碧にした。

 トウガラシの木は“つん”と存在した。
 緑の柔らかい葉に同量の真っ赤なトウガラシがたわわに成り、まだ緑色のものも多数含まれていた。

 ここが何処なのか、これが何なのか、己は何なのか、サッパリわからなかった。
 しかしピュアな、つんざく辛さだけがこの世界にバリッと予感のように響き渡っていた。“辛い”というそのことが、只々純粋に在る...。なんという世界だろう!

2002/09/04 Wed

 ここにマスターオブレンテも、タコの兄弟ハチロー、スケハチも、パイプのMも、固有の姿は既になかった。
 すべてが“トウガラシ”となり“辛さ”が精霊となり、只々キラめき続けた。

 その“辛さのキラめき”は十方世界を満たし、さらにその壁を超え、次元そのものを突破し、人知が及ぶとこのないとこまで行き着いた。

2002/09/05 Thu  

 そこには、大きな仏足跡のような足形が、巨岩の上に刻まれていた。その遥か下の方にカウンタ−状のものが、カチッと今まさに19999から20000に変わった!?
 ひとたびこの“辛さの果て”を経験したものの数なのだろうか?それとも、なにか時をきざむ装置なのだろうか?
 なにか、こけ脅しのようなケバケバしさが滑稽な感じを添えてた。

 その時、グルンと世界が裏返るような感じがした。
 1本の木は、ふたたび一つの真っ赤な実だけを残してかき消えていた。

2002/09/05 Thu

 一方、会長とジョージの乗った、あの変なクリーム地に黒斑のナメクジモンスター、それにパンロゴ、オニャンコポンの乗った太鼓棺桶は、それぞれまったく違う世界を経験をしてた。
 一つは明らかに“昆虫妖怪”の世界、もう一方は、“メデスンマンの物の怪”世界に、顔かたちが変わるほど強烈なインパクトを受け、命からがら戻ってきた。

2002/09/09 Mon  

「ジョージ!?お前、...顔がカミキリ虫になってるぞ?!」
 会長がジョージを見て叫んだ。
「ヘイ!会長、あんたこそヘラクレスカブト虫だあ?!」
 ジョージが顎をはずしそうに驚いて言った。

 そこに、闇にリンリンと輝く昆虫の姿が在った。
 徐々に暗闇に目が慣れるにしたがって、異常な姿は薄くなり見えなくなった。元の2人の姿が現われてた。

 それぞれが戻った。...いつの間にやら鼻をつままれてもわからないほどの暗闇にマスターオブレンテ,会長、パンロゴ達は立っていたが、誰の姿も異様にくっきりと解った。

 と、そこに超絶技巧のシェケレフレーズが響き渡った!

2002/09/10 Tue

 “シキシャカ、シキシャカ、シキシャカ、/シュクシャカション、シキシャカション、/シケリ、シケリ、シケリ、”
「これはカラバシ語で強い警告を言っておるのじゃ。暗黒の領域チ・クワブーに入ったことを警戒しろと言っておる!」
 オニャンコポンの隣にいた白衣の小柄な男が言った。

「あれ?あんた誰?!」
 パンロゴが男に言った。
「ワシか?ふふふ、ワシはDrメゴチじゃ。」
 おとこは顎の髭を撫でながらおもむろに言った。
「Drメゴチ〜?!」
 みんな声をそろえて男を見た。
「Drメゴチ?!あの、Drメゴチなの?!」
 オニャンコポンが目玉が落ちそうに驚いて言った。
「そうじゃ。あんたら、カウンター20000踏んだじゃろう?ふふふ、おもしろそうなので見に来たんじゃよ。只の野次馬じゃ。」
 Drメゴチが興味深々という感じで髭を撫でた。

2002/09/10 Tue

「知っとるか?!“チ・クワブー”は"KONRON"にある暗黒の海じゃ!これは恐ろしいぞ!ここには光というものがない!真の闇が支配しておるのじゃ!解るか?諸君!?さあどうする?
カウント20000ゲットの腕前を見せてもらおうじゃないか!?

んでじゃ、ちょい詳しいじゃろ?ワシはもともとの学位は放射線宇宙物理学なんじゃて。もっとも大メデスンマンとしてこのあたりじゃ通っておるがのう、ふふふ。」

 Drメゴチは、より速く髭を撫でながら言った。

「この人、ジャパンの長老メデスンマンだよ!どんな病気も治してくれる!ここじゃみんな知ってる!」
 オニャンコポンが目玉をグリグリさせて叫んだ。

2002/09/11 Wed  

 シュクシャカション、シキシャカション、/シュクシャカション、シキシャカション、再び軽いカウンターぎみでシェケレが聞こえてきた。

 警告は赤いトウガラシが発していた。
「チャプテン、トウガラシ達、ここから先はどうしても行けないと言ってるよ?!」
 今度はスケハチがカラバシ語を訳して言った。

「すると“ラゴリン”はもうすぐか?!」
 マスターオブレンテは、暗い果てしない海を前に勇み立って武者震いした。

「そうじゃとも!この真っ暗な海の向こうが猿の王国ラゴリンじゃ!しかし何物も見えまい!?どう渡るのじゃ?」
 Drメゴチは多少愉しむように言った。

「この闇の海は不思議と恐怖を抱かせない...!?それどころか柔らかい安心感をおぼえるのは俺だけかい?」
 会長が座り込んで真っ暗な海を前に言った。

2002/09/11 Wed  

 暗黒の海の方を目を凝らして眺めると、闇が吠えてるように波の打ち寄せる音がして、波の波頭だけがすべての人間をあざ笑うように白く見えた。

「ほんと真っ暗だあ!海も空もこれじゃ区別つかないよ!」
 パンロゴが言った。

「ここには光というものがねえんだからしょうがねえな...。だがな、それじゃすまされねえ!無きゃ創るっきゃねえ!!」
 マスターオブレンテが吐き出すように言った。

「え!?チャプテン、どうやってでしゅ?!」
 スケハチ、ハチローが声をそろえて言った。

2002/09/12 Thu

「ヘヘヘ!オレにまかせろよ!キャプテン!」
 会長の鼻がブッとぶような凄い勢いでグルングルン回っていた。
「これを見ろよ!イーチングラスの種さ。あの時ひと粒隠しておいたのさ!」
 会長の手のひらには黒いひと粒の種がのっていた。
「お?!やるじゃねえか!むむ!?しかし、それを使うと会長、...おめえの命が危ないぜ。今度こそ間違いなくおめえの記憶が根こそぎ持ってかれる!」
 マスターオブレンテが言った。

「はは!もう遅いぜ!」
 会長はすでに頭にイーチングラスの種をまいた。
 ズズワ〜ンと、物凄い勢いで光の柱が会長の頭上から昇った!

2002/09/12 Thu  No.55

 そのすさまじい光の柱とともに、会長が足を海に踏み入れたとたん、海がダイヤモンドのように七色に自ら発光を始めた!あたりはなんと白昼の数十倍の明るさになった!あまりの強烈な輝きに誰もまともに目を開けていられないほどだった。

「す、凄い!?これ、ほんとにイーチングラスの効果なのか?!...それにオレはなんともないぞ?!」
 会長が思わず言った。

「おお?!これは暗黒の海チ・クワブーがスイッチングされたのじゃ!これは凄いぞ!!」 
 Drメゴチが顎を外しそうなって言った。

この暗黒の海チ・クワブーは、"KONRON"の集めた経験エナジーすべてをプールする貯蔵部だった!

2002/09/13 Fri  

 ダイヤモンド色に輝くチ・クワブーの海の一部が突然、にょっと立ち上がり、みるみる人のかたちになった。そしてそれはプルプルと歪みながら話しかけて来た。

「よくここまで来れたね!みんな!」
 なつかしい声が聞こえた。
「ああっ?!ココレレ?!」
 パンロゴは自分の目を疑った。
 見ると次々と遇いたい知り合いが次から次に波間に立ち上がり、懐かし気に話しかけて来た。

「危ない!これは罠かも知れんぞ?!」
 マスターオブレンテはいぶかしんだ。

2002/09/17 Tue  

「これは船幽霊にそっくりだ!そこから離れて手当りしだいなんか掴め!おれはサルガッソーの海で何度も見たことがある、もたもたすると全員海に引き込まれるぞ!?」
 マスターオブレンテが大声で怒鳴った。
 パンロゴ達は、蜂の巣をつっ突いたような騒ぎになった。お互いのシャツやベルトをガムシャラに掴みあって、奇妙な輪っかになった。
「まてまて、これは遊んどるんじゃ、チ・クワブーの遊びじゃよ。海が鏡の様に会長の潜在領域を実体化して遊んだんじゃな。しかしアブナイ、油断するな!まだ離しちゃいかん。へたするとチ・クワブーに持って行かれるかも知れん!?」
 Drメゴチが言った。

 輪っかは“おっとっと”と、もんどりうって回った。

2002/09/18 Wed  

 強烈に輝く波が突然フリーズしたり、信じられない大きさのトンネルができたり、チ・クワブーはなにか幼児が砂で遊んでいるような行動をとっているようだった。
「チャプテン!このチ・クワブーの行動って、誰かの頭の中の記憶のまんまじゃないでしゅか?!」
 輪っかで回るハチローが言った。
「なんだとー?!...会長?!どうなんだ?!」
 輪っかのマスターオブレンテが言った。

2002/09/19 Thu  

「ええっ!?お、俺の幼児期の記憶だってえの?!ぜんぜんそんなこと解らないよ!なんにも覚えちゃいないもん!」
 輪っかの会長が怒鳴った。
「そうじゃろうて!薄らとしか記憶できんのじゃ!これは”小さな人間”じゃなくて“大きな人間”の経験エナジーじゃ!つまり“限定解除”なんじゃよ!?経験の、最もピュアな黎明領域じゃ、わかるか?!」
 輪っかのDrメゴチがホットに叫んだ。

「解らねえ!!」
 マスターオブレンテがきっぱり言った。ますます輪っかの速度が上がってきた。
「チャプテン!ひょっとして、もっとも経験エネジーの“おいしいとこ”じゃないでしゅか?!」
 輪っかのスケハチがパッと閃いたように言った。

「と、ところで、オレたち、なんで止まれないんですだ?」
 輪っかのオニャンコポンが恐る恐る言った。

2002/09/20 Fri  

 輪っかのスピードはますます上がっていた。

「へヘイ?!アレ、なに?」
 ジョージが、輪っかの真ん中の中空を顎で指して言った。

 そこには、緑色のボ−ル大の石が強烈に光のバイブレーションを発しながら浮いていた。その明るいエメラルド色の光は、まるで呼吸をするようにゆっくり点滅をくり返して輝いてた。

「!!!ポラリスエメラルドだぜ!?」
 マスターオブレンテは目を見開いたままになった。

「ポラリスエメラルドは、ポラリス原石の中でも超ド級だ。俺ですらまだ数回しか見たことが無いよ。不思議な石だよ。」
 パイプのMが紫煙になって現われて言った。

2002/09/25 Wed  

 この輪の中空に出現したポラリスエメラルドこそ奇跡の石だった。

 その不思議に煌めく波動は謎に満ちていたが、その輝きの何色ともつかない強烈な癒えるような光りは、深い生命現象の発生や存在の問題そのものに関与しているようだった。

 ...どこかに幽かに“ダルペン”の音のない音が3拍子、4拍子の複雑なポリリズムを刻んでいた。

2002/09/26 Thu  

 “3”と“4”のリズムが同時に合わさりながら刻まれるポリリズムの波動は、ダイナミックにすべてを展開する力に満ちていた。音にならない音が不思議なエメラルドの輝きとなって、あらゆるものに降り注がれていた。

 チ・クワブーはその輝きの波動にさらされ、大きく盛り上がるようにうねった。あたかも顕在化した無意識領域がほんとうの命の展開を与えられたようだった。それから先は誰にも解らない!

「オレは見たぞ?!これこそが本当の“KONRON”の正体だぜ!」
 Mが叫んだ。

2002/09/27 Fri  No.63 "KONRON"

「いったい命の不思議さと言ったらないもんじゃ。霊界“KONRON”は、すべての実体を容易に見ることができる世界じゃが、現象だけを追っては何も理解出来ん!

 エメラルドポラリスは現象側からは解釈が不可能じゃ!したがってその作用は不可思議きわまりない!しかし、その癒しの効用は類を見ないほど凄いもんじゃ!
ワシが思うにそれは“3”と“4”の複合作用なんじゃ!実際シンプルなんじゃよ。...あらゆるものすべては整合されない波動で成り立っている!そのせいでエメラルドポラリスはすべてに影響を持つのじゃ。

 そのコントロールが何でなされているかはまったく謎じゃ。」

 Drメゴチがエメラルドポラリスを凝視しながらつぶやくように言った。

2002/10/03 Thu  No.64

「ちょっと待て、俺の直感からは、エメラルドポラリスに“コントロールされる”、という上位構造はいくら探しても見当たらない。コイツはクールだが俺と同じ部類の“イキモノ”かもしれねえ。」
 Mが煙のように広がりながら言った。

「あんたは何なんだ?」
 会長がすかさずMに返した。
「俺か?俺は言ってみりゃ“盟友”ってとこよ。お前達と成り立ちが違う“イキモノ”さ、俺ははじめ森だったのさ。今は“けむり”だがね。」
 Mが見えないぐらい薄い煙になって言った。

「そうか、お前さんとおんなじか!...まったく変なヤツらだぜ。」
 マスターオブレンテがコルトをホルダーに納めて言った。

2002/10/03 Thu  

 相変わらず“おっとっと”と、ひょんなことから回り始めた輪っかは、皆の手が離れないまま回ったままだった。

「てことは...。パンロゴ入れてみるべか?!ピンパ、ピンパピンピンパ!」
 パンロゴがリズミカルに口ずさんだ。
 すると、なんと!!?

2002/10/09 Wed  

 エメラルドポラリスには何も起きなかった。しかし回っていた輪っかは突然解除され、みんなもんどりうって弾かれた。と、目にも止まらない速さで、マスターオブレンテはエメラルドポラリスに飛びかかった!まるでフットボール選手の様に見事な決死のタックルを決めると、懐に入れて、着ていた上着ごとグルグルと麻袋に押し込んだ!

「へへっ、捕まえたぜ!」
 マスターオブレンテはほっぺたの汗を拭いながら言った。

2002/10/10 Thu  

「チャプテン?!だいじょうぶでしゅか?!そんなことして?!」
 ハチロー、スケハチが声をそろえて言った。
「へへへ、大丈夫かどうかはわからねがな...。」
 麻袋を皮紐でぐるぐる巻にしながらマスターオブレンテが言った。

「エメラルドポラリスがこんな簡単な方法で捕まるとはの!驚きじゃ!」
 Drメゴチが目玉をギョロつかせて言った。
「どんなやつにも絶対てもんはねえ!どこかにスキってもんがあるもんよ!後は後でってもんだ。ウヘ!」
 マスターオブレンテは、一仕事終えた男のようにニッカリ笑ってパイプに火をつけた。

 チ・クワブーはこの事態を驚きを持って見ていた。何度も海上の波が飛びかかる突然の仕草をリピートしては感心しているようだった。
「こいつは、この事を学習しとるぞ?!マスターオブレンテ、あんたに憧れてるかも知れん!?」
 チ・クワブーを見てDrメゴチが叫んだ。

 パイプから、もくもくと煙を吐き出しながらそれを聞いてたマスターオブレンテが、突然言った。
「試しに頼んでみるか?!何処に在るかわからねえんだが、...チ・クワブーよ、お前なら知ってるだろ。...俺達を今すぐ“ラゴリン”に連れてけ!ココレレに遇わせろ。」

2002/10/11 Fri  

 というマスターオブレンテの舌も乾かないうちに、突然深い森が目の前に存在していた!?樹齢何千万年という大樹で出来上がっている巨大なジャングルが突如として出現した。

「おい!?こりゃホントか?チ・クワブーよ?」
 マスターオブレンテは、パイプをくわえた首を突き出したまま言った。

2002/10/17 Thu  

 そこは入り口だった。マスターオブレンテはじめみんな一様に感じた事があった。それは何処を探しても記憶にはないが、なぜか、おだやかでとてもなつかしい思いだった。深い古代の巨木の森からは、不思議な明るさと落ち着きがハーモニーのように流れて来るようだった。自然に出来た道に深くまで木漏れ日が差して、柔らかく導いた。
 “ラゴリン”はすぐそこにあるようだった。

「間違いなくここは“ラゴリン”らしいな。」
 Mが薄く雲のように伸びて言った。

2002/10/21 Mon

 そこでマスターオブレンテは森に向かってでかい声で叫んだ。ココレレの名を呼んだのだ。
「ココレレ!ココレレ!聞いてくれ!俺の声が聞こえたらここに姿を現わしてくれ!サンコニャを救えるのはお前しかいない!...。」
 その声は木々の葉を震わせた。しばらくして、木霊のように森の木々の葉が一斉に小刻みにますます震えた。

 もとはと言えば、“あの公園での”ココレレ消失の後、暫くして原因不明でサンコニャは瀕死のフリーズをしたのだった。その肉体は抜け殻と化した。マスターオブレンテ達は途方にくれたが、噂を聞いて“ココレレの首”を探しに旅に出たのだった。


 サンコニャは必死の戦をしていた!謎の空間、サイバービレッジ“ズアミノー”で刺客のターゲットになった。その恐ろしさは並ではなかった。視線を定められたが最後、執拗な刺客の追跡がサンコニャに行われた。
 “ズアミノー”、それはいままでサンコニャの夢の中に何度もくり返し現われていたサイバーな場所だった。広い通りの向こうにはコンクリートの高くない塀が続き、赤茶の捨てられた残土が固まって頭を出していた。そこにもサンコニャを探すロボットのようなレーザー探査の目が在った!通りのこちら側の、その1歩裏は川に沿って隠れたような裏道がくねってた。錆びて捨てられた車やバスがエンジンもないのに急な坂や細い道を生き物のように走り廻っていた。その空間はサイバーに、しわくちゃになったりじゃばら状に折れ曲がったりしてた。
そこでは、サンコニャは刺客から逃れるためのひとつの発明をしていた。“スーパーブレード”と呼ぶ反重力シューズを自らが履いて執拗な刺客をも駆け抜けるように逃れることが出来たのだった。

2002/10/22 Tue  

 サイバーパンクな場、“ヅアミノー”は閉じられていた。その存在もその場もどこにも存在しなかった。人が夜にみる“夢”のように、おきている側からのコントロールはほとんど不可能に近いものであった。何も知らないでサンコニャは覚める事のない悪夢の暗黒を全身全霊で戦っていた。

 ラゴリンの森の前に立つマスターオブレンテ一行の目の前に、突然としてまばゆく輝くものが出現した!

2002/10/23 Wed

 森から忽然と現われた集団自体が透明な輝きで包まれていたのだ。それは“猿”と呼ぶにはあまりにも透徹した雰囲気をもつ15〜16匹の類人猿の集団だった。その背後にはおびただしい数の気配が感じられた。
 それぞれの身長は2メートルをゆうに超え、人と同じく直立していた。金色とも銀色ともつかない輝く毛並みは、ふさふさと透明に輝いていた。その眼差しはどれも意志と気力にとんで湖のように澄んでいた。

「ココレレがここに居ると聞いてる。会せてくれ。」
 マスターオブレンテがその“猿”の一団に言った。

2002/10/24 Thu

 その一団は言った。声というよりシェケレともザイロフォンともつかない、かすれた複合リズムのような唸りが起った。

...「ココレレは今ここで夢をみて深く眠り続けている。わたしらにもこれを起こす事ができない。この目を醒ますことができればきっと、すべてに変化が起って来る。その目醒めがいつ起るかはわれわれはまったく解らないのだ。それまでココレレをずっと見守る。」
 それは不思議な事に、マスターオブレンテの胸に直接意味が伝わってきた。

「うわわ!チャプテン!?これもカラバシ語の一種でしゅね!でもマテリアルそのものが直接載せられてましゅね!これは凄い言語でしゅ!おどろきモモのきさんしょのきでしゅ!」
 スケハチがゆでダコのように真っ赤に興奮して言った。

2002/10/25 Fri

「おい?!みんな!コレを見てくれろ。」
 突然オニャンコポンが透明な小さな瓶を目の高さに取り上げて言った。「おれはチ・クワブーの水を汲んで入れといただ。中でなんか騒いでる?!」とつづけて叫んだ。
それはよく見ると、まるで液晶の映像が立体化したように何かを映し出していたのだ。
「ありゃっ!?...これはココレレ?!い〜やサンコニャだか?!」
 パンロゴが瓶に顔をすり寄せ大声で叫んだ。

2002/10/29 Tue  

「あっ?、パンロゴ?!パンロゴなの?」瓶の中の人物が突然こちらに気づきしゃべった。
「あわわ!ココレレ?それともサンコニャ?おら、びっくりだ!?今どこに居るだ?!」
 パンロゴが飛び上がって言った。囲んでいたみんながその小瓶を覗き込んだ。
「解らない。でも空いっぱいにみんなの顔があるよ!」
 その若者が言った。
「ここは彼等の夢の中じゃないか?!そうだよきっと!ココレレ&サンコニャのミクスチャーゾーンだよ!だんだん解ってきたぞ!?かれらの無意識領域の周波数がまったく同じなんだ!いわばサンコレレだよ!?」
 会長が尻尾の鼻をグルルとさせ叫んだ。

「ふむふむ!チ・クワブーの収集した経験エナジーはどうやら無意識領域の“夢”も媒介できるようじゃぞ、こりゃおもしろいことじゃ〜!まるで“夢”との立体テレビ電話じゃな。あ〜 もしもし、ハロハロー、聞こえとるぞ。」Drメゴチが言った。

 サンコレレ!?“夢”?!...ラゴリンで眠るココレレは、ズアミノーで戦闘する夢中のサンコニャと同一化してる...?!

2002/10/30 Wed  

「ここは...!ズアミノー?!」
 類人猿のひとりが唸るような声を出すと、直接胸にボールが当ったように意味が解った。
「ズアミノー?!」
 マスターオブレンテが言った。
「ズアミノーは場所のない国。眠りの中にある。古木のコーラの実を食べるとそこに行ける!」
 再び直接ボールが当った。
「ココレレの魂はズアミノーにあったのか?ズアミノーは不思議なとこ、われわれのふるさと、われわれの未来...、」
 年寄りの類人猿のボールが弾けた。

2002/10/31 Thu  No.77

 そのコーラの古木はいったいどのくらいの年数をへているのか見当もつかなかった。しかしジャングルの中の、ひっそりとしたすがすがしい冷気をたたえる場所に鎮座するように在った。

 周囲には、親しみ深いが叡智に満ちた雰囲気があふれ、その木は自らが輝くようでいた。真下からみあげると広げた枝には無数の真紅の実が緑の葉と争うように成っていた。

 パンロゴ達が歓声をあげ見上げていると、子供の類人猿があっという間に枝先まで駈け昇り、真っ赤な実を山ほど採った。
類人猿の長老が、その皮を慣れた手つきで剥くと中から赤ん坊のこぶしほどのかたまりで、アイボリ−色の種が取れた。それをカリンと歯でかじりとってむしゃむしゃ食べ始め、みんなにも勧めた。

 木の下はパンロゴ達と類人猿が入り乱れ、あたかも収穫祭のような様相を呈した。

2002/11/05 Tue  

 もともとズアミノーは、夢の中にある“ふるさと”のような場所だった。きれいな水が豊富に流れ、花は咲き乱れ、自然が人類と共生する理想郷のような、文字どうり夢の場所だった。初期の人類以来ここに、ある植物の実によるドリームコントロールで自由に行き来できたのだった。

 しかしある日、突然として何物かにのっとられた!その時から、ズアミノーはサイバーパンクな身の毛もよだつ恐怖の場に変貌した。

2002/11/07 Thu  

 夢は突然戦場に投げ出されてた。

 刺客のロボットの狙いは、おそろしいほど正確だった。赤いレザーマーカーが額に止まるや、真直ぐに弾が飛んできた。オレンジ色の残土のこやまのフェンス周囲には、息を呑む光景があった!

 類人猿の、おんな子供の死体がすでにおりかさなるように投げ出されてた。その場の状境をとらえる間もなく、事態はふる回転していた。

「あぶねえ!伏せるんだ!」
 マスターオブレンテが怒鳴った。
 親を失った類人猿の子供がふらふらと歩き出したのだ。会長はそれに飛びかかった。間一髪でレザー光ははずれた。

「てめえ!ロボットのくせしてふざけるなよ!」
 会長が怒りで青くふるえて言った。
「よし、俺がやる!会長、援護してくれ!」
 そう叫ぶとマスターオブレンテはフェンスから飛び出しコルトを両手でグリップし、ロボットめがけ走った!
 マスターオブレンテの額に赤い光が止まった瞬間、ガシッと衝撃が走った!!

2002/11/11 Mon  

 そのとき何者かが、突然フェンスを越えて物凄い速さでマスターオブレンテに飛びかかり、間一髪のとこでスナイパーロボットの攻撃は空をきった。2人は、そのままフェンスの影までころがった。

「サンクス...!おおっ!?ココレレ!?...サンコニャか?!」
 マスターオブレンテが頭を両手でガードしたまま言った。

「イイェ〜ィ、キャプテン!両方だよ。なつかしいよ!ボクはココレレだよ!」
 ココレレが言った。
「ここではボディは1つになってるんだ、今喋ったのはココレレだよ。魂がシャムの双児のようにくっ付いてるんだ。そしてボクはサンコニャだ。もともとボクら双児だからぜんぜん不便はないけどね!」
 サンコニャが言った。

「お前らココでは面倒なことになってるな?!とにかく見つけた!やっと、たどり着いたぜ!!サンキュー!」
 マスターオブレンテが伏せたままニカッと笑った。

2002/11/12 Tue

「下品な、見た事のねえ形だがロボットだろ?あのスナイパーロボットはなんなんだ?」
 マスターオブレンテが腹ばいのまま聞いた。
「ボクらにも解らないよ。気をつけて!ヤツラったら恐ろしく正確だよ。」
 ココレレが言った。

 マスターオブレンテはころがていたアキカンをフェンスから放り投げた。とたんに、赤いレザーポイントが空中にある内にその上に当った。
「確かに速え、蜘蛛みてえな動きしやがる。あの赤いレザーを出す光線スコープがウィークポイントだな...。」
 マスターオブレンテはフェンス沿いに腹ばいに進みながら言った。

 マスターオブレンテはジェスチャーで皆に臥せてるように指示を出すと、コルトの弾を金色のものに差し換え、フェンスの左側に回り込んだ。
 ロボットは蜘蛛のように複数の脚を忍ばせ、時々赤いポイントレザーで確認するようにこちら側に近づいて来た。

 そのとき何を思ったか、パンロゴが突然立ち上がってベロベロバーをした!?瞬時に赤いレザーポイントがその額にのった!

2002/11/13 Wed  

「よし!まかせろ!!」
 マスターオブレンテが同時に撃鉄を落とした。その黄金の弾はスナイパーロボットのマーカースコープを跡形も無く破壊した。
 しかし、スナイパーロボットの発射した弾も同時にパンロゴの額を貫通していた。

「ひえ〜っ?!撃たれた?!パンロゴ!大丈夫か〜?!」
 会長が駆け寄った。
「あ〜ビックリだあ!おらの頭に穴が?!」
 パンロゴが叫んだ。

「お前は太鼓なんで中身が無い、不幸中の幸いじゃ。んが、ちょっとばかり涼しいか?これでも詰めておけ。」
 Drメゴチが胸ポケットからダークな輝きのポラリス原石を取り出し、クチャクチャかんでたガムでくっつけ穴を塞いでくれた。
「うわっ、ハカセありがとう?おらまた男が上がっただ!」
 パンロゴは喜んで言った。

「パンロゴ...、おまえってヤツは?!」
 会長が頸をひねった。

2002/11/14 Thu  

「ヤツはなんなんだ?」
 マスターオブレンテが言った。
「ヤツラは人間を狙撃するロボットだよ。まるでハンティングのテクニックと精度を競っているみたいなんだ。」
 ココレレが言った。
「ヤツラって?まだいるのか?」
 マスターオブレンテが言った。
「4〜5体知ってるよ。サイバーパンクな感じで壊れたバスやバイクに、そっくりな色になって擬態してたりして、突然狙ってきたりするんだ。ここに来ていた人間や類人猿達がかなり殺されたんだ。」
 ココレレが答えた。

2002/11/14 Thu  

ズアミノー/解説

 ズアミノーは現実に存在しない場所だが、いわば古い地層の上に新しい地層が幾層にもかさなりあったようなとこで、変質した過去の生命波動が温泉のように噴出すとこであった。

 記憶というシステムにシンクロする深層集合無意識は、普段レベルでは見えにくい地下水脈のような整合性のない動きをしていたが、“温泉”のようなかたちで変形生命波動が噴出するズアミノーは場所のない真実であった。

2002/11/15 Fri  

「ケッ!なんてこった!、コイツ人間ハンターか!」
 マスターオブレンテが目玉をギロリとさせてスナイパーロボットを見据えた。

「殺人ロボットか?!究極の飼い犬に手を食いちぎられた感じだな!」
 会長が尻尾の鼻を不随意に動かし言った。

「ウ〜ム...、もともと、マシンを造ったのは人間じゃ。」
 Drメゴチが続けた。
「機械自体が自己増殖と同時に疑似生命として進化をはじめたんじゃなこれは!?しかしなぜこの生命の“温泉”ズアミノーをターゲットに?...いやいや、マシン自体、効率性とクールな無意識性の塊なんじゃぞ。コイツらの中身は覚醒した無意識性なんじゃ!ハハ、なんちゃって、...このサイバー空間こそコイツらの住処かも知れんな!」
 Drメゴチが軽くロボットを蹴飛ばした。

「ありゃ?...光った?キエ〜ッ?!コイツ動いてるよ!直ってきてるよ?!」
 オニャンコポンが奇声をあげた。

2002/11/15 Fri  

「チャプテン、チャンスでしゅ!再生の間にコイツの基礎データを書き換えてやるでしゅ!」 タコのハチローが、すばやく壊れたスナイパーにコンタクトをこころみた。

「...コイツら中身はすごく単純でしゅよ!?...こんなのでイイの?」
 スケハチが言った。
「なんじゃと?!...わかったぞ!コイツらのホントの本体は古くなった機械をおしげもなく捨てる人間の深層無意識が核をなしてできあがってるんじゃぞ、きっと!?」
 Drメゴチが閃いたように言った。
「ドクター!解りました。それじゃコイツ、お掃除用の再生プログラムにきりかえちゃお。」 スケハチがタコの手よろしくあっという間にチップを入れ替えてしまった。

 ...再生されるスナイパ−部分が竹ぼうきに変更されてた。

2002/11/21 Thu

「ヘイ!ゆだんしないで、マスターオブレンテ。ボクはサンコニャの方だよ。まだ3〜4体いるよ!コイツら不思議なコミニュケーションで通じてる風なんだ!」
 サンコニャが言い、切れ目も無く今度はココレレが喋った。
「ボクはココレレだよ。そう!何かあると、他のヤツラがすぐに飛んで来るよ。」
その舌も乾かないうちに残土の影から2体、50メートルほど離れた錆び付いた黄色のロードローラーの上にもう1体、
 ...赤いマーカーが光った。
 瞬間、会長の身体が後ろに吹き飛んだ!
「会長!?」
 マスターオブレンテが叫んだ。

2002/11/22 Fri  

「あ〜っ!!会長がやられた?!」
 サンコニャが叫んだ。
 見ると会長は顔面に着弾して、後ろに5メートルほどブチ飛んだ形で、そのまま仰向けになっていた。
...が生きていた?尻尾の鼻の先端は弾丸をムンズと掴んでた...?

「痛てっ、...信じられねえけど生きてるぞ?...野郎!お返しだあ〜!」
 その瞬間、尻尾の鼻は不随意な物凄い回転をしたかと思うと、弾を撃ったロードローラーの上のスナイパーが派手に吹き飛んだ!?
 驚く間も無く、続いて小山の向こうの2体が立て続けに爆発した?!尻尾の鼻が信じられない早さで石を拾い投げたのだ、いや、投げるというより...消える魔球?!

「会長、おめえ...、なんてヤツなんだ?」
 マスターオブレンテが眉毛を思いきり下げて会長の方を向いて情けなく笑った。
「う〜む、ニューヨークヤンキースが誰よりも欲しがる人材だよ...。」
 パイプのMが目を開いてキッパリ言った。

2002/11/25 Mon  

 案の定爆破された破片は集まり自己再生を開始しはじめた。スナイパーロボットが自己再生される過程でスケハチ、ハチローのタコの兄弟はチップの書き換えをロボットにほどこした。

 この4体の掃除に対しての集中力は半端なものではなかった!見る間にもとの瑞々しい環境を取り戻し、その名は“おそうじ4兄弟ロボット”の異名をはせることになる...、それはさておき、

 ...元はと言えば機械に対する人間の身勝手な行動が生み出したモノ達であったが、以後、ズアミノーをクリーンに保つかかせない存在となった。
こうしてズアミノーは“サイバークリーン”な環境を一気に取り戻すことになった。すると、ズアミノー全体に“クリスタルなゆらぎ”が起こり始めた!?  “クリスタルなゆらぎ”!?

2002/11/25 Mon  

 危機の去った後、しばらくズアミノーの温泉を堪能していたパンロゴ一行は“クリスタルなゆらぎ”にすっかり魂を遊ばせていた。

 “クリスタルなゆらぎ”とは、...分かりやすく言えばハイレベルな“温泉での命の洗濯気分”と呼ぶべきか...。
 ズアミノーの温泉を通して綿々と噴出し続ける超古地層からくるダイナミックな“いのち”の不思議なエナジー。そのディープなゆらぎが、直に自分の中に流入出現してくるのだ!

 自分が今、ここだけのものでない“いのち”であることを深く味わい、魂の実在を直に感じる不可思議な、この“クリスタルなゆらぎ”こそが“KONRON"の正体であった。

2002/11/28 Thu  

 “クリスタルなゆらぎ”には実に不思議な効能が有った。

 時で言えば46億年あまり...、夢の中の夢を見るように、おのれが連綿と生まれ変わり、生まれては死んでゆくいのちの全容をはっきり再体験すると、透徹したクールな側がそれをまたハッキリ見るのだ。
 同時にこころに大安心のような気持ちが突如生じて、あらゆるものすべてがあらゆる可能性を持ったことの、大祝福を受ける!?

 効能は、...すべてにきく単純泉...。

2002/11/28 Thu  

「なんだかよ〜あっけねえ結末でかたずいちまったが...、怪我の功名ってやつだな〜こりゃ!コレ、コレだよ!ここの温泉は他と違う!こうやってると、なんだか骨の髄までよ〜、やる気になってくるぜ〜!」
 タオルを頭に捩じり鉢巻きにしたマスターオブレンテが、野天の湯に浸かりながら言った。

「まったくでしゅね〜、キャプテン!ここは普通の温泉じゃないでしゅ〜!」
 スケハチ、ハチローのタコの兄弟が、真っ赤なタコ顔に同様の捩じり鉢巻きで言った。

「不思議だなあ!ぼくらの運命の冒険はとてもとてもスゴイことなんだね〜?!今だけかもしれないけど...、どんなに不可能に思える辛い事でも、チャレンジすることがどれだけ大切な事なのかもわかったよ!うわあ!温泉でのぼせて湯あたりしそうだよ〜!」
 ココレレ&サンコニャのつやつやした黒い横顔が言った。

「類人猿の長老に聞いてみりゃ、いままでのズアミノーもここまでの効用はなかったらしいね〜?!またくどうなってるんだか?!まあ、前代未聞ってことだよ、これは。」
 会長は温泉をゆっくり泳ぎながら言った。

2002/11/29 Fri  No.93

「まったくこんな気持ちになったこたねえど?!おら...。あれ?パンロゴ!?おめのからださ穴からピョーと蛇口のように湯がでとるよ?げはは、鉄砲で打たれた穴だわ!これはおもろいわ〜!」
 オニャンコポンが腹をかかえて笑った。

「パンロゴ、...おまえ、いつから噴水になった?」
 ジョージがせまって真顔で言ったので爆笑が起こった。

「!!しまったよ〜!おでこはハカセがポラリス原石で埋めてくれたけど、オラ後ろを忘れてたよ!」
 パンロゴが後頭部の蛇口を押さえながら言った。

「ぐはは、腹がよじれそうじゃ!ぬはは、そ、それは悪かった、もう一つ君にやろう!」
 Drメゴチがどこからコバルト色の輝く石を 取り出し、またまた噛んでたガムで埋めつけた。

2002/12/05 Thu

「よろすぃ。」
 何者かの声でココレレは目が覚めた。口の中が苦い味がした。

 すぐ気ずいてココレレは首に手をあててみた。身体と首はしっかりとつながっていた。サンコニャが身体の中にいなかった。いったいここは何処なんだろう?みんなはどうしたのだろう?

 ココレレは大きな樹の下の長イスに横たわっていた。隙間からのぞく真っ青なコバルトブルーの空に雲が流れていた。
 そうだ!、あの“クリスタルなゆらぎ”が湯煙のように温泉の視界をゼロにしたのをココレレは思い出した。それからの記憶がなかった...。
 そのときココレレは、Drメゴチが“クリスタルなゆらぎ”は生き物のように突然あらゆる場所につながる可能性がある、と言っていたのをハッキリ思い出した。

「ここはどこなんだろう?」
 ゆっくりココレレは起き上がった。

2002/12/06 Fri  

 ココレレは大きな樹を見上げながら思った。...どこかで見た事がある場所だった。自分の旅が始まった故郷?!身体を柔らかく包むような、なつかしい風が吹いている...。

「あ、!?ここはボクの故郷だ?!」
 ココレレは思わず息をのんだ。
 あまりのなつかしさに涙が込み上げてきた。何処かからパンロゴの音と歌声の朗らかな響きが聞こえてきた。

 ココレレには突然時間が無限に在るように思えた。

2002/12/10 Tue

「ククク、ジュ、ジュ、コ、コ、...ココレレ、ジュジュに遇いたくないかい?」
 枝に止まった青い鳥が急に言葉を喋った。
「ジュジュ!?ジュジュはここにいるの?」
 驚いてココレレは小鳥を見上げた。
「以前の家に帰ってごらん。ジュジュがいるよ、お前が帰って来るのをずっと待ってるよ。」
 青いきれいな鳥は、これだけ喋るとさっと枝を飛び出した。

 家の前の、ふみ固められた広場の土はきれいに掃かれて木漏れ日の陰がまだらに揺れていた。
 清潔で涼し気な広場は、ムシロに座り穀物を選り分ける女や、長椅子で昼寝する老婆、歩き回る鶏、...あのころと、どこも変わっていなかった!

 ココレレは、入り口のところで大声で村に帰ってきた挨拶をした。みんな驚きと喜びで飛び上がり歓声をあげ走り寄ってきた。

2002/12/10 Tue

 ココレレの祖父ジュジュは部屋の長椅子で寝たきりになっていた。
 ココレレが近寄ると痩せた上半身をおこしてかすれるような声で言った。
「お帰り、...ココレレ。よく帰ってきたね。...お前のすばらしい旅の様子はヨージェメから聞いてたよ。ホントによく帰って来れた...、ホントに。」
「えっ?!ヨージェメから...?!おじいちゃんはぜ〜んぶ知ってたの?!ボクの首がとれちゃったことも?!」
 ココレレが言った。

2002/12/11 Wed

「ははは、わしはメデスンマンじゃ、わかっとるぞ。そうそう、その話じゃが、この世界に無いとこ、つまりココレレ、お前達はわしらが“戻れん穴”と呼んでおる世界に行ったようじゃのう...。じゃが、こうして戻れた...。それが実に不思議じゃ...。それがわしにはとんと解らんことじゃ。...とにかくよかった、よかった!

 して、う〜む、あとお前がサンコニャに首をはねられたとき、あんときにはワシはまったく肝を冷やしたよ。助けようにもまったく手が出せん!ヌーヌルの陰謀じゃったが、しかし不思議な力が働いてお前は死ぬ事がなかった。

 ...死と言うものは幾千の時を賭して“いのち”が乗り越えておる“波”かも知れんな...。」

 ジュジュが熱に浮かされように喋った。

2002/12/12 Thu

「ワシらが生きておる間に知りうることはほんのわずかじゃ...。いのちと死の不可思議さは、まったくはかり知れることじゃない!...

 ココレレ、お前はサンコニャという双児の、自分と同じ存在があるように生まれついたのは偶然じゃない。そして謎に満ちたお前の旅もじゃ...!」

 ジュジュが続けて喋った。

“KONRON"おわり

 

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