惑星MZー1 パート3/『インナーワールド』


2001/11/09 Fri

 太陽は、海辺のまちの時間を白昼夢のように止めた。パンロゴは椰子の木陰で目を醒ました。
「あれ〜?ここは...?ヌングワだ?!」
 パンロゴは寝ぼけたと思って目をこすった。
「そうだ!オラ達、惑星の内部に突入したはずだったんだ〜っ!?みんなは?グレ−トアンビシャス号は?!」

 波はなにごともなかったように寄せては返していた。

 

2001/11/09 Fri  

 椰子の樹の下に幼馴染みが集まった。すぐに始まるパンロゴの歌とダンス。たちまち木陰に子供も大人も集まって来た。
 寄せる波とリズムが、不思議なひと塊の風景になり海辺と人が同化した。景色が喜んでいるのが感じられた。...何者かがおおいに喜んでいる!?
 パンロゴは疑問を振払いリズムに没頭した。ダンスは軽快に速いステップをこなして、ますますノリにノッて盛り上がって来た。すると、なんともいえない高揚感で、場が椰子の樹を中心にグラッと融解し始めた感じがした。パンロゴは恍惚に意識が遠のいていったた。
 ...パンロゴの故里、ヌングワの風景が満タン充電された?

「パンロゴさん!?だいじょうぶ?」
 砂漠の花が呼び掛けてきた。

 

2001/11/11 Sun

 砂漠の花の入った携帯圧縮容器は、ガラスのフラスコのような形をしていた。砂漠の花は、パンロゴのハートに歌うように直接語りかけて来た。
「ヌングワのみんなはどこ?」
 パンロゴが周りを見回しながら言った。
「あそこよ!でも居るのは今はわからないわ!ここはあなたの知らないハートの深い世界なの。」
 砂漠の花が歌った。
「それじゃ今のは夢をみたの?」
 パンロゴも歌うように言ってみた。
「ああ?!、パンロゴさんあなたの言葉が強く聞こえて来たわ!?あ、それで...ほんとうなの。ほんとうのことなの!ここは惑星MZー1の“インナーワールド”...。」
 花は続けて言った。

「信じられない 事でしょうけどよく聞いて!“インナーワールド”は、眠るものを呼び覚ます不思議なところなのよ!あなたの集合無意識が目を覚ましたの!それはあなたを形づくった地球という惑星の“眠ってた半分”よ。」
 砂漠の花の言葉は歌のようだった。

 パンロゴはしばらく考えてたが、クロシオタローをまねてオペラ風に言ってみた。
「な〜んだかわからな〜い〜!?」

 

2001/11/12 Mon

「おお、パンロゴさん!?なかなかおじょーずデス!どははは!!」
 クロシオタローが笑った。
「あれ、?タローさん?!あっ?!みんないる?!」
 パンロゴは丸い目をさらに丸くした。

「ここはグレ−トアンビシャス号だったの?」
 パンロゴが言った。
「そうでチュ!“ここ”は“ここ”なんでチ!このインナーワールドに突入して、存在の連続性が違う流れの干渉を受けるみたい!」
 スケハチが言った。
「つ〜ま〜りぃデス...、この惑星の存在の無意識サイトが目覚めているんじゃないかなあ?簡単に言うと、ボク達が“惑星の夢”になっちゃったんだヨ!きっと!」
 ハチローが続けた。

「おいおい!俺は夢の海賊かあ?勝手に人の夢になっちゃヤだね〜!?ドハハ〜!」
 マスターオブレンテが、おどけて窓をのぞきながら言った。

 

2001/11/14 Wed

「おお〜?!なんだ、アレは?!」
 マスターオブレンテが叫んだ。
 驚いたことにすぐ眼下の荒れ狂う海で、巨大な鯨と大王イカがデスマッチをくりひろげている!
 見たこともないほど巨大な白鯨と化け物のようなイカがからみ合って、イカの長い足が白鯨の胸部分をグイグイと締め揚げた。白鯨はスローモーションを見るような背面ジャンプをした。イカは荒れ狂う海に叩き付けられ、想像を絶する波しぶきが何百メートルも昇った。その低周波の響きはグレートアンビシャス号までドド〜ンと揺るがした。イカはしばらく躊躇したようだが、再び白鯨にその足を伸ばした。
 人の知ることも出来ない世界での戦いは神秘に満ちていた。

「こりゃスゲ〜ぞ!!」
 マッチョも丸い目をさらに丸くした。

 

2001/11/14 Wed

 これは、人のような憎しみからの戦いではない...。食物連鎖の捕獲の争いでもない...。権威の争奪でもない。このスケールの大きさもさることながら、
 これは無意識の目覚めが見せる壮大な神秘だった。

 グレ−トアンビシャス号のクルーは、かたずを呑んでこの光景に見入った。やがてこの果てしなき戦いは漆黒の深海へと、序じょに姿を消した。大海原には静寂が戻って来た。
存在のはかり知れない深淵、白鯨と大王イカの格闘は観る者を圧倒した。
「ふう...!ええもん見せてもらいました!」
 クロシオタローが言った。

 

2001/11/15 Thu

「ちょ、ちょっと待て〜!?」
 マッチョが叫んだ。
「あそこになんか見える!人だ!ボートに人がいるよう?!」
 マッチョの視力は10.0。呆れ返るほどよく見えた。
「え〜?どこ?どこ?」
 クルーの誰も確認出来なかった。
「ええい!ワタシ行くよ!」
 マッチョが扉をあけようとした。
「ワ〜オ!今、下に降りる!シンパイない。」
 ロフロンジが言った。
 グレートアンビシャス号は高度を下げ海面にぐんと近づいた。

 

2001/11/16 Fri

「オ〜イ!たすけて〜!ヘルプミ〜!ここですよ〜〜〜ぉ!」
 救命用ゴムボートからの声がかすかにパンロゴの耳にも届いてきた。
 すぐに救助のエスカレーターが、海面上10メートルに停止したグレートアンビシャス号の船腹からスルスルっと下ろされた。
 マッチョとパンロゴがすばやくゴムボートに降り立った。

「あ〜、たすかった!!ありがとう、生きた心地がしなかった!お世話様です。」
 そこには、ブリキのおもちゃのようなひょうきんな顔があった。どう見ても旧式の初期型ヒューマノイドロボットのようだった。とても大切そうにフラスコ状のものを抱いていた。
「アナタ、めずらしい宇宙服着てるね〜?!そのガラス瓶ナニ?」
 マッチョがおもいっきり目玉を開いて聞いた。
「ワタシは“エムピースリー”、ロボットな〜んです。コレですか〜?コレはルーピカ博士で〜す。」
 ひょうきんな顔が笑った。
 ロボットが蓋を開けるや、すぐに瓶から解凍された、小柄な人間が現われた。
「ハロ〜!ワシはルーピカ博士じゃ!いや〜、助かった!ありがとう!」

 

2001/11/16 Fri

「ワシらどっから出て来たと思う?わっははは!クジラの腹さ!やっ、冗談じゃないぞ、ひょんなことから、とてつもなく大きなクジラに呑まれたんじゃ!」
 ルーピカ博士が言った。

「げ〜っ?!今の大王イカの締め揚げで吐き出されたの〜?」
 マッチョは目玉を落としそうになった。

 “MP3”が急に立ち上がって喋り始めた。
「そう!ワタシは博士を瞬間圧縮ガラス瓶に詰めました。ホホホ!でも、ず〜っとクジラのお腹の中。ワタシ、まるでピノキオで〜す!...て、ことは?博士はゼベット爺さん?ガガガ、ガタピシ、ガタピシ。」

「しまった。オイル切れだ〜。待っておれ!...チョイ、チョイと!よし!...この丙型ロボット“MP3”は日本陸軍の秘密兵器なんじゃよ!」
 長いあごヒゲを撫でながらルーピカ博士が言った。

 

2001/11/21 Wed

 MP3とルーピカ博士はグレートアンビシャス号に救助され、内部をクロシオタローに案内されていた。
 通路をスタコラ歩く小柄で短足のル−ピカ博士と、長身でブリキ人形のようなMP3のやりとりは、なぜかコント劇を思わせた。笑いで皆振り返った。
「ワシはクジラの腹にいて、な〜んにも食っておらん!目がまわるほど腹ペコじゃわい。おまえはどうじゃ?MP3よ?」
 ルーピカ博士が言った。
「ヤ〜!博士!なに言ってるんです!?ワタシは真空管とかが好物です!。おいしい真空管をウェルダンでね!...あ〜、アキバのラジオセンター、うまいんだ!ズズズ、ピキピキ。」
 MP3が言った。

 

2001/11/22 Thu


 博士「ちょ〜!?ちょう待ち?!あの歌声が聞こえて来る?“砂漠の花”の...?う〜ん!なんと澄んだよい声じゃろう〜!ワシのハートに直接響いて来るような...?む、たまらんな!」
 

 MP3「ガピ?...博士、わたしにはなんにもきこえませんよ〜?」

 博士「あたりまえじゃろ!ワシのようにデリケートな心を持った人間にしか聞こえんのじゃ!」

 MP3「ガピピ!...しまった、失礼しました!ボリュームを落としておりました。ああ、わたしにもヨ〜ク聞こえます、博士!」

 博士「...。」

 

2001/11/22 Thu

「ところでMP3、おまえのようにドンくさいロボットにはわからんだろうなあ、この気持ち...。ワシはあの“砂漠の花”に恋をしてしまったようじゃよ。ああ、あの切ない歌声は、ワシのハートをえぐりとるようじゃて!」
 ルーピカ博士が言った。

「博士!解りますとも!わたしはただのロボットじゃありませんよ!こう見えても真空管6球ですよ!見て!ガッチョン!立ち上がりこそ遅いですが。...ガピガピガピ...好きなんでしょう?わたしが伝えてきますよ!」
 MP3が言った。

「アホ!ワシがおまえを造ったんじゃ!それもたった7日でじゃ!このワシのデリケートな思いを解るわけがない!ああ、憂いと悩みが厚い雲のようにワシを覆う。」
 ルーピカ博士が呟くようにいった。
「博士!それではわたしが音楽をならしましょう!」
 MP3が言った。
 博士「あ、いいな、美しいやつたのむよ。とびきり。」
 MP3「ガガガ、ッピ、ガピガピガピ!...こんなんど〜です?」 
 博士「バカ〜!!」

 

2001/11/27 Tue

 グレートアンビシャス号は、Mから渡された地図のインナーワールド、MZー1内部の真っただ中、アフリカ大陸の大地構帯の上にゆっくりと差しかかっていた。惑星の内部と言う感じはまったくなかった。狐につままれたのか、あのなつかしい地球そのものだった。

「まったくなんてこった!気が着いたらテメーの家だ?!」
 窓を見ながらマスターオブレンテが言った。

「な、なにいとるんじゃ!ここはもとから地球じゃぞ!?アフリカ大陸の真上じゃ!」
 横からのぞきこんでル−ピカ博士が言った。

「ガンガピピ?!ノー、ノー、博士。ここは惑星MZー1のインナーワールドで〜す!間違えないで。」
 さらにのぞきこんでMP3が言った。

 

2001/11/27 Tue

 濃い緑の部分がときとして真紅に見える?!アフリカ大陸はクルーの目の前に、謎を含みながら茫洋と横たわっていた。

「あそこから人類は生まれ広がったと言われておる...。う〜む、じつに不思議なことじゃ!」
 ル−ピカ博士が言った。
「ガピ!わたしが生まれたのは、20世紀なかば日本の家の6畳間でしたよ?」
 MP3が言った。
「え?うそ!?りゃりゃ?...な〜んじゃ、おまえを作ったのはわしじゃないか!アホ!あたりまえじゃわい!」
 ル−ピカ博士が言った。
「ガピガピ!わたしを作った人が目の前にいるっていうのも、へ〜んなもんでありますよ〜。ガンガピ!」
 MP3が言った。
「ナハハ!俺たちも似たようなもんかもしれね〜な?!そのへんから誰か見てるかもしれねーぜ...。」
 マスターオブレンテが言った。

 しばしの間、3人は狭い丸窓にほほをすりよせアフリカを眺めた。

 

2001/11/29 Thu

 聞こえて来る砂漠の花の歌はこんなことを歌っていた。

 “大きなティーカップは、今もたくさんの魂を鎖につないでるの、
 砂漠の市場に行ったなら黄金のコ−ラの実を5つ買って、
 砂漠の市場に行ったなら黄金のコ−ラの実を5つ買って。
 1つ目は大地に埋めて、2つ目は河に投げて、
 3つ目は砕いて風に、
 4つ目は深い深い海に沈めて、
 残り1つはあなたが持ち帰るの。
 大きなティーカップは、今もたくさんの魂を鎖につないでるの
 絶望の中に、 解き放ってくれる勇者すら信じられないでいるの
 これを聞いたあなたに、手を差しのべてと助けをもとめているの”

 くり返し、くり返し、謎のような歌詞が澄んだ声にのせて響いた。

 

2001/11/29 Thu

 歌に聞き入っていたマスターオブレンテがうっとり一服つけると、Mがパイプの中から突然立ち上がって言った。

「む、!その砂漠の市場に、俺がすぐに連れてってやる!」
 瞬間、一同市場の雑踏にたたずんで茫然といる自分達に、マスターオブレンテ以下みんな唖然とした!
「ゲ〜!?なんでこーなるの?!」

 

2001/12/05 Wed

「ど〜なの、...黄金のコーラの実なんて売ってないよ〜?!どうするの〜?!」
 マッチョが大声でぼやいた。

「なははは!そうやすやすは手に入らんじゃろ〜。黄金と言えばゴールド、金塊のことじゃろが?な、MP3よ?!」
 ルーピカ博士が言った。

「オーノー!博士、そんな金の塊、こんなとこでますます見あたりませんよ〜?!あるのは野菜や生活物資ばかり!ガピガピ!
わたくし、思うにただの木の実じゃないでしょうか?ガピン!」
 MP3が得意そうに言った。

「バカモン〜!ちゃんと“黄金”と“砂漠の花さん”がおっしゃっておるのじゃ!言葉を理解しろ、言葉を!MP3よ!」

 

2001/12/06 Thu


「お前さん方、いま、黄金のコーラの実をお探しとか言ったね?それならこの水を買いなされ!これは“砂漠の泉”というオアシスから汲んで来た水じゃ!
その泉のほとりに大きなコーラの古木があって、ここの水は古来より“黄金のコーラの実”といわれておるのじゃ。飲めば疲れがいっぺんにとれるじゃろ...。ほれ、見てみなされ木漏れ日を映して黄金に輝いておるじゃろ?」
 水売りの老人が語りかけてきた。

「なんだって?ホントか?じいさん!」
 マッチョがまじまじと瓶を覗き込んだ。

「ガピ!なんということ!?感動でわたくしの真空管がオーバーヒートしそうですヨ〜!ガピガピガッピ!」
 MP3が言った。

 

2001/12/06 Thu

「おい、じいさん!その水をビンにつめて5本くれ!」
 マスターオブレンテが大声で言った。
「ゴクゴク...、ああ、うまい!オラ、飲んでみたけどふつーの水だよ?」
 パンロゴが言った。
「ああ、わたくし、...ガピ!真空管にしみわたる〜!ガピン!」
 MP3が言った。
 パンロゴ達は、砂漠の市場で謎と思われた“黄金のコーラの実”を手に入れた。

「ところで...MP3!?おまえ、ロボットのくせに水の味まで覚えたか?」
 ル−ピカ博士が言った。
「はい、わたくし、やはり真空管のオーバーヒートには水ですね!ガピガピ!」
 MP3が言った。

 

2001/12/06 Thu

 というわけで“黄金のコ−ラの実”を手に入れた一行はそこを出発した。

「ガピ!次にわたくしども、“ビックティーカップ”を探さなきゃなりませんねー?!ガピガピ!...そこに罪のない魂がたくさん捕らえられていて、日々、絶望の淵をさまよう人達がカップの淵を 往ったり来たり、いやいやなんでしたっけ?...。ガガガピ...とにかく“砂漠の花さん”の歌に歌われておりますもんね〜。ガンガピピ!」
 MP3が言った。

「探すまでもねえ!ヤツラのことさ。...西インド会社さ!」
 マスターオブレンテがコルトに手を架けた。

 

2001/12/07 Fri

市場のあるオアシスを行き交う人々は、この不思議な一団を奇異の目でながめていた。マスターオブレンテを頭に、マッチョ、パンロゴ、ル−ピカ博士、MP3、の5人。
街はずれまできた一向の前に、ぼろ布のように老婆が行き倒れていた。パンロゴが駆け寄ったが、すでにこと切れていた。
 老婆は水を求めてここまで来たが、ほんのあと1歩と言うところでこと切れてしまったようだった。その形相には水への強い渇望が顕われていた。パンロゴは一緒に“黄金のコーラの実”を埋めてやった。

 

2001/12/10 Mon

 このように、“黄金のコーラの実”を手に入れてみると、“砂漠の花”が歌う歌詞に匹敵する出来事が、不思議なことにつぎつぎと起り、5本の瓶はいつのまにか、1つ、また1つと失われ、手許に残ったものが1瓶となった。

「ガピガピガピ!あと1瓶になりましたー!わたくし思うに、まったく歌のとうりになりましたよ?ガピン!博士、わたくし、真空管が焼き切れそうです!ビビ。」
 MP3が狼狽しながら言った。

「う〜む!MP3よ、心配には及ばん!長生きしとるとわからんことのほうが多いぞ〜!おまえはロボットなんじゃ、よけいな心配をするな!真空管がもたんぞ!?わははは〜!」
 ルーピカ博士が言った。

 しかし事態は思わぬ方向に展開しだした。この水はのこり1瓶となってから、驚いたことに信じられない治癒の能力が突然顕われたのだ。この“聖なる水”のうわさは爆発するようにたちまち広まった。

 一行の行くところ、死にそうな人間や重い病の不幸な人の波がドッととばかり押し寄せてきた。

 

2001/12/12 Wed

 人の波はあっという間に一行を幾重にも取り囲み、聖者を見つめるような眼差しが、パンロゴとル−ピカ博士に注がれた。
 不思議にも足腰の立たない者は、ほんの一雫の“黄金のコーラの実”で元気に立てた。
また、死の淵にある末期癌患者の患部にほんのわずかでも塗ると、たちまち癌は畏縮して、老人はみるみる生気を取り戻し歩いて帰って行った。
 ほとんどの病は一雫の“黄金のコーラの実”で快癒した。

「おー?!まずいよー!最後の1瓶もう半分になっちやったよおー?!、絶対にわたせないね!わたしたち西インド会社と戦うのよお?!」
 マッチョが人ごみで、もみくちゃになりながら嘆いた。

「ガガ!しつれいですが、ガピガピ、わたくし思うに、これほどの不幸と絶望の淵に在る人々がここにいらしてますデス。これは放っておけませんよー?ガピ、ガガピー!」
 MP3が回りながら喋った。

 

2001/12/13 Thu

 うわさはうわさを呼び、遥か遠くから、歩けるものはもとより、死の淵を彷徨う重病者がタンカに担がれ、荷車に乗せられ、うめき、どよめき、難民のように大変な数押し寄せてきた。

「わお?!これはもう、止められないよお〜!?」
 順番の整理をしていたマッチョは泣き言のように叫んだ。

 さながら一行の砂漠近くの仮設営地は、聖地のような様相を呈してきた。顔、顔、顔、どの顔も一条の光と奇跡を求めて、苦悩と恍惚が入り交じっていた。
 パンロゴ、ルーピカ博士、マスターオブレンテ、に礼拝して行く者すら多くなっていた。

「マスターオブレンテ!どうしよう?もう“黄金のコーラの実”半分もないよ?!」
 パンロゴが瓶を覗き込んで言った。

「正直言って西インド会社どこじゃね〜な?!...使い切っちまおう!」
 マスターオブレンテが言った。

 

2001/12/19 Wed

「まったく、人間ていうやつは不幸になるように出来てるのがよくわかる!おい!押し寄せる人の波は増々増えとるぞ〜!しっかり問診せ〜ぃ?!MP3よ!」
 ル−ピカ博士が仮設テントの中から怒鳴った。
「ガガピ!了解!ガガ、みなすぁ〜ん!わたくしはバイリンガルです。ど〜ぞお困りの状況をお知らせくださ〜い!ガンガピピ!64カ国語大丈夫ですよ〜!」
 人ごみより頭ひとつ抜けたMP3が見回して言った。
「ええ〜い!着けて、飲ませて、塗りまくれ〜!パンロゴ!景気よくバックミュージックだ〜!太鼓を頼むぜ!」
 マスターオブレンテが吠えた。
 まるで周辺はあたかも聖地の祭りのような様相を呈しはじめた。

 

2001/12/20 Thu

 “黄金のコーラの実”のうわさは瞬く間に世界をかけめぐった。
 世界各地から、ジェット機で、車で、船で、徒歩で、荷車で金持ちも、貧乏人も、ぞくぞくと“黄金のコーラの実”を求め、波のように押し寄せてきた。
 しかし、とっくに“奇跡の水”の瓶は底を突いていた。
 だがそれはパンロゴたちの危惧するには及ばなかった。“黄金のコーラの実”はすでに独り歩きを始めていたのだった。

 さっそくパイプラインが、泉からこの聖地へと曳かれた。一般の者は泉から遠ざけられ、この水を使う権利すら奪われた。
 しかし、あいも変わらずぞくぞくと人々は奇跡を求めやって来た。

 “黄金のコーラの実”そのものはただの水で“奇跡の水”ではなかった。しかしそんなことはもはや問題とはならなかったのだ。争ってそれを買い求める人、人、人がそこにあった。

 意志とはうらはらにルーピカ博士と、マスターオブレンテは、いつの間にか人知の及ばない聖者のあつかいとなっていた。
「ケッ!もうどうにもなんね〜な!?やっぱりビッグティーカップのために使うべきだったか!?」
 マスターオブレンテが吐き出すように言った。

おわり...?

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