2001/07/25 Wed |
ココレレはドアを押して部屋から出た。そこは船の客室のようだった。あたりをうかがて甲板に出た。やっぱりそれは飛行してた。白い雲を切り裂いて、その帆船は飛んでいた。
「うわぁ?!飛んでるぞ〜?すごいや!」
渡り鳥の一群が、すぐ横をゆっくり飛んで行くのを眺められた。
ココレレは右舷に行ったり左舷にいったり、両手を広げてみたりすっかり飛行の世界に夢中になってしまった。
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2001/07/25 Wed |
「小僧。目が覚めたか?!」
渋い声がココレレの背中に響いた。
「俺はこの船のキャプテン、マスターオブレンテーだ。」
「おまえは3日前、空からここに降って来たんだ。まったくめずらしい。」
そう言うや片方しかない目が笑った。
「そのときに握りしめてたものを、それ、返すぞ!」
オブレンテーは、黒く光るダイヤのようなものをココレレに投げてよこした。
「あとでゆっくりおまえの事は聞くとしよう。俺は海賊だが悪いやつじゃないぞ。がははは!」
それだけ言うと、脇にあったタルの中を覗き込んでタコの兄弟をつっついた。ココレレを振り返りながら再び大笑いをして立ち去った。
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2001/07/26 Thu
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海賊船エンタープライズ号は“メラの港沖”で浮遊してしまい、一時は航行不能になってしまった。
この問題を解決したのは、急速に知の進化を遂げ続けるタコのスケハチとハチローだった。飛行を学習して以来、むちゃくちゃレベルがアップしていた。しかしコイツラ、あいかわらず人柄、いや、タコ柄はよかった。なんとも人なつっこいかわいさは失われない。キャプテン・マスター・オブレンテーの大のお気に入りになっていた。
おかげでエンタープライズ号はパンロゴ航法があやしくも解りつつあった。
「ストトンパ、ストトンパ」
ん〜?!。軽快なリズムをたたきだしている楽器はタルだった...。
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2001/07/26 Thu |
絵の中の3人の顔を見ようと、サンコニャは鼻がこすれるほど近づいた。だが見ればみるほど暗い空間にはなにもないように思えた。
このとき3人の肖像と思われた影は、こちら側に焦点を結んで突然実在して来た。死に神の手下の“無”だと名乗り、サンコニャを3方から取り囲んだ。
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2001/07/26 Thu |
サンコニャの目と鼻の先にある、マントにおおわれた“無”の顔は、最初なにもない空洞だったがやがてあらゆる悲惨な表情が次から次ぎと現われては消えた。
「これがおまえたち人間の現実だよ。」
正面の“無”が唸るように言った。
「生まれ出たら早いとこ死ぬのが楽さね。」
左の“無”がボソッと言った。
「そう、それが一番さ、サンコニャ。」
右の“無”が凄んで言った。
「僕は知ってる!僕は猿の神様から聞いてるぞ!お前達は何も手出し出来ないって。」
サンコニャは勇気を出して叫んだ。
「僕の前からいなくなれ!」
突然すべてが明るく爆発したようだった。
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2001/07/29 Sun |
グレートアンビシャス号は、マッチョやテテら海賊達の強力なパンロゴで、早くも次元航行と呼ばれるぐらいのポテンシャルを得ていた。
これにはクロシオタローも大満足だった。
タロー は、世界を股にかけあらゆる有能な人材を グレートアンビシャス号に集め廻った。今や飛行する人類の頭脳になりつつあった。しかし集めれば集めるほど、どこかがドンキホーテとサンチョパンサを思わせる感があった。理解を超えてやってくる現象は、はるかに人間の脳の寄せ集めだけではどうにも出来なかった。
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2001/07/30 Mon |
クロシオタローというのは不思議な男だった。商人でありながらその素性は日本人と言う他はよく知られていなかった。しかし西インド会社との貿易で、巨万の富を得たらしいことは噂されていた。
それは、ポラリス原石発見と関係していたらしい。
しかし最近、西インド会社の殺しやが、血眼になってタローを亡きものにしようと付け狙っていた。その首には、事情は違うが、マスターオブレンテーと同じほどの賞金が掛かっていた。
本人、そんなことどこ吹く風、
「な〜んだかわからな〜い。」
これがタローの口癖だった。
そう、なんだかわからないがやる気マンマン、異世界交易の野望に燃えていた。
そのときも、グレートアンビシャス号は、ゆっくりとカリブ海上すれすれを航行中だった。あたりは先ほどからミルクのように濃い霧につつまれていた。船にはバリヤー機能が働いていたが、鼻をつままれてもわからないほどだった。
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2001/07/30 Mon |
霧の中、突然世界が割れるような大きな声があたり一面に響いた。
「上はおお水、下はおお火事な〜に?!」
グレ−トアンビシャス号は面喰らったようにガクンと止まった。
「え?」
グレ−トアンビシャス号の内部はハチの巣をつっ突いたような騒ぎになった。
あたりはシンとしていた。
再び、
「上はおお水、下はおお火事な〜に?!」
海が割れんばかりの声がした。
とりなしようのないパニック状態の中、タローが恐る恐る言った。
「お、おふろ?!」
少しの間をおいて、声が地鳴りのように言った。
「正解。」
みるみる霧が晴れると、とてつもない島が グレ−トアンビシャス号の目の前にそそり立っていた。
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2001/07/31 Tue |
忽然と現われたその島は、海に突き刺さった想像を絶するスケールのフランスパンのようだった。頂上付近には不思議なフォルムの雲がたなびき、島全体が神秘の雰囲気に満ちていた。
そう、東洋の伝説の島“鳳来島”を思わせる風情をたたえていた。
「ぐあ〜っ、こんな島いままではじめてだぞう?」
サブフレーズでコントロールしていた、おおかみ男が グレーの毛むくじゃらの頭をおもいきり掻いた。
「わはは、ロフロンジ、しっかり着けてくれ〜!」
コントロールルームのやからがヤジをいれた。
シピリンピリンパのメインフレーズのテテが、軽くランディングのパンロゴフレーズをたたくと、グレ−トアンビシャス号は小さな砂浜をの上空にピタリと停止した。
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2001/07/31 Tue |
そのころ、ココレレの乗ったエンタープライズ号はメラ港を南下しながら、点在する島から島を帆走していた。
キャプテン・マスターオブレンテーにこれを進言したのは、タコのハチローだった。
「新月、あと10日は普通帆走するがイーよ、チャプテン。」
早くも言葉をしゃべれていた。
海洋生物独特の感受性がそう判断してるらしい。
「わはは、イイねハチロー、俺はこのほうが性に合ってるぜ。」
マスターオブレンテーは、ナイフを的のど真ん中に命中させた。
的のナイフを抜きながらスケハチが言った。
「それに新月のとき、ポラリスの波長変化おおきいねェ。コントロール、ムズイのデス。」
「できた〜。」
となりの調理室では、ココレレの得意料理ができあがった。
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2001/08/01 Wed |
「ココレレ、腕前どう?イケる?」
スケハチがなべを覗き込んだ。
「ココレレ、ナニ?コレ?」
ハチローが8本のうち2本をなべに入れた。
「シチューです。」
ココレレが言った。
「は〜、ウス...。」
ハチローがペロンとなめて言った。
「...は〜、ウス..ココレレ シチュ〜 てか?!わはははっ!!」
マスターオブレンテーは笑いで、腹がよじれてしまった。
みんな、なんのことかわからずポカンとしてしまった。
マスターオブレンテーだけ笑いが止まらず、床をころげまわった。
「ココレレ...シチュー...、わはははは、げははっは、ぐははは。」
「お、俺だけ...ぬははは、..見てるんだ?ははは、テレビ?!ひははは。」
止まる様子はなかった。
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2001/08/01 Wed |
グレートアンビシャス号の巨大な船底が開いて、動く階段が小さな砂浜へと降りた。クロシオタロー、その従者、パンロゴ、ペレイラ、マッチョ、テテ、おおかみ男、冗談を飛ばしながら、ぞろぞろと降りて来た。
降りると、ますますその島は不思議さをあらわにした。
その砂は砂金であった。黄金色に輝く砂浜の輝きに目もくらむほどだった。さ〜大変だ。
「金か?」
ペレイラが目をむいた。
「ヤホー!オレは億万長者だあ〜!」
マッチョが叫んだ。
「ホンモノ?」
タローが拾い上げ、つぶさに観察した。
そのタローが言った。
「ん〜、ホンモノだ...。」
おおかみ男とテテはどこに持っていたのか、早くもスコップで麻袋につめていた。
パンロゴは金には興味がわかなかったので、岩場の方に行ってみた。しばらく行くと、そこには温泉が湧いていた。なんと湯煙の中、一人の男がイイ気持ちで歌をうなっているではないか。
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2001/08/02 Thu |
露天の温泉は自然の岩に囲まれ松などが上に差し掛かり、なんとも 東洋的な雰囲気だった。
「もひゃもけ〜ちにゃ〜ばあ、べあわぬこ〜こ〜、とイイ湯ですなあ。」
男はパンロゴに声をかけた。
「あ〜、いのちの洗濯だ〜〜。」
つづけて言った。
「えんりょしないであんたもお入りよ。」
男は向こうを向いたまま頭にてぬぐいをのせた。
「ほんじゃ、しつれいします。」
パンロゴもゆっくり肩までつかった。
「あたしゃ、北の国から来たんですが、ここの湯はイイですぞ〜、効能がまた凄い。」
男は言った。
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2001/08/03 Fri |
サンコニャは気が着くと東洋風な風通しのよい室内に居た。
澄んだ空気の中、どこかから、なんとも言えない花の香がただよってくる。突然あの“無”のことを思い出した。サンコニャはあたりを見回した。夢を見ていたような気がした。そこにはみずみずしい現実感があった。
開けはなれた廊下から庭が見えた。強い光と影のまだら模様は、蝉の声にもかかわらず、時が正午で止まったようにしんとしていた。
「サンコニャ。」
やさしい声が呼び掛けた。
サンコニャは振り返ったが誰もいなかった。
「サンコニャ、ここです。」
サンコニャは、もう一度振り返った。
そこに、高貴な女性がいた。サンコニャは、一瞬赤い花の咲いた椿の樹を思い浮かべた。
「サンコニャ、よくここまで来ましたね。」
鈴のような声が言った。
「あなたは来れないかと思ってました。よく来ましたね。」
空中から華がふりそそいできた。
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2001/08/06 Mon |
「ここはどこ?あなたは誰ですか?」
サンコニャは舌がもつれそうになるぐらい早口に質問した。
「ここは“シャングリラ島”という島です。普段は厚い霧につつまれなかなか来れません。普段ど こにあるかも誰も知らないでしょう。」
言葉のやわらかなひびきひとつひとつから華が降るようだった。
「わたしはあなた達を心配するものです。」
「名前はウランと言います。」
女性はつづけて言った。
「サンコニャ、あなたはこの世に生まれ出ないはずの運命を背負っていました。だけど、この島の不思議な力が、あなたに可能性をあたえたのです。」
「ほとんどの神々の反対を押し切って、あなたはここまできたのです。困難な道だったと思います。唯一の味方は動物神である猿神のみ。よくここまで来ました。あなたとココレレはこの島の未来でもあるのです。」
サンコニャは、生まれてからの自分のことを思い出して涙で目がいっぱいになった。
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2001/08/06 Mon |
「ここの温泉は“たましい”の洗濯ができるんですよ。ほら、こうやって...。」
男が顔をひとなですると、むきたまごのようにツルツルになって顔がなくなってしまった。
「あれ?驚かないんですね?」
男が言った。
パチパチパチ、パンロゴは拍手して言った。
「ゆでたまごはスキです。」
「ひさしぶりに、面白いモノ見ましたよ。」
「ホントに効果ありますね。この湯は。」
続けてパンロゴは言った。
「パンロゴは100年たつと精霊が立ち現われると言われてるんです。 いま、わたしの真上に垂直に虹が出てわたしは変化をとげました。この湯のおかげです。サンキュー!」
パンロゴは精霊を内包した。
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2001/08/06 Mon |
この謎の島は実に不思議な島であった。東洋に古来より伝説にうたわれた“鳳来島”の景観を呈していた。しかも、ここは、カリブ海ではなかったのか?!
この島を見て誰も戻って来たものはいなかったと言う。嵐に渦巻く大波を乗り切るとそこにあったとか、ふたたびそこに行くと、なにもなかったとか。またあるときは霧の中からこつ然と現れたとか。永劫太古のむかしより、この世を司る八仙が住まうとも言われた。
誰も行ったことがない謎の島、どうやらこの島が“シャングリラ島”なのか?
そこに起ることは?
人智を超えた凄いパワーが溢れているのか?!
いったいどうなってしまうのだ〜?!
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2001/08/07 Tue |
温泉につながる石畳の坂道を、誰かがゆくり杖を突いて降りてきた。「けけけ」と笑いながら、朱塗りの橋を渡り温泉のつい横まで来た。
背は低いが頭が異様に長い。かなりの老人だが色つやは輝くようだった。
「福禄寿様!?」
ムキたまごの男は言った。
「おお、その声は、“まいまい”か?」
「福禄寿様、やだ“まうまう”でございますよ。ほ〜れ!」
男の顔は元に戻っていた。
「ああ..おぬしも温泉がすきじゃの〜。」
「そりゃあもう、こんなイイもんはございませんよ、へへへ。」
「おや?もうひとりおられるのう...。こりゃめずらしい。太鼓のおひとじゃ...。この湧き出る湯はキキますぞお。」
「はい、パンロゴと言います。なんだか、すっかり不思議な力がからだいっぱいにみなぎってきてます。」
「なある...。けけけ、それではそこの上に有る東屋に寄りなされ。」
老人はいま来た道を杖で指し示した。
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2001/08/07 Tue |
海洋生物特有の感で、水上航行していたエンタープライズ号だったが、辺りが薄明るくなって気が着くと、西インド会社の船10数隻に取り囲まれていた。
「キャプテン、船がいっぱいこっち来るよ?!」
見張りをしてたココレレが言った。
「こいつはヤバいぜ。スケハチ!ハチロー!飛んでくれ〜。」
マスターオブレンテーは言った。
「アイアイサー!チャプテン。」
やおら、凄い勢いで艦砲射撃が始まった。右舷、左舷といわず大きな水柱が立った。
「アバヨ〜!西インド会社の諸君!又会うとしたら地獄の入り口だ!」
マスターオブレンテーがどなった。
エンタ−プライズ号は滑るように浮いてみるみる高度を上げた。
「がははは、おととい会おうぜ!」
マスターオブレンテーはニカッと笑って、スケハチの頭をチョンとつっ突いた。
スケハチ、ハチローともに小躍りして喜んだ。と、 その瞬間すさまじい音がして船が大きく縦に揺れた。 ガガガガガガ!ズズ〜〜〜ン!
「な、なんだ〜〜!?」
エンタ−プライズ号は次元の壁をブチやぶったようだ。
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2001/08/07 Tue |
「お〜い!みんな〜どうだ〜生きとるかあ〜!」
マスターオブレンテーがどなった。
あたりは非常に静かだった。
「チャプテ〜ン、ここよ〜!」
スケハチ、ハチローが松の木にぶるさがって、ブラブラしながらバンドエイドを貼ってた。
エンタ−プライズ号は、なんと、不思議な雲のたなびく、シャングリラ島のてっぺんに不時着していたのだった。
フランスパンの突端に当たる部分にチョコンとバッタが乗ったような形で止まっていた。
ココレレは、やおら島のてっぺんにある東屋の中に、凄い勢いで転がりこんで止まった。
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2001/08/09 Thu |
山頂付近の庵では、折しも、あのヨージェメが数人の客とコギリ(木琴)の演奏会をもよおしていた。そこの真っただ中、コギリのまん前にココレレは、ゴロゴロゴロゴロ!!と、もんどりうって転がりこんだ。
驚いたのは客達だ。突然出現した少年に、すっとんきょうな声を上げた。
「ひえ〜っ?!子供が降ってきた〜っ?!」
「ヨージェメのコギリが子供を産んだぞ〜っ?!」
さすがのヨージェメも目を丸くして言った。
「サンコニャか?!」
「サンコニャは、...僕の双児の兄です。」
ココレレは転がったまま、あたまを起こして言った。
「すると、お前はココレレか?」
ヨージェメは驚いて言った。
ココレレの手に握りしめていた黒い石が静かに点滅して消えた。
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2001/08/10 Fri |
シャングリラ島は摩訶不思議の島だった。周囲は霧に囲まれ、そそり立つフランスパンの形は、普通では見ることができなかった。
それのみか、神出鬼没、あらゆる場所に出現できた。
なんと、この島自体が乗り物であった。島は超純度のポラリス石でできていた。
島をコントロールするのはコギリの波動だった。ココレレが飛び込んでしまった庵は、言わば、シャングリラ島のコントロールルームにあたる処だったのだ。しかしコギリの演奏とは、コントロールと呼ぶにはあまりにも概念を逸脱したものでもあった。むしろ“気”のコントロールと言った方が当たっていた。
さて、このとき反応を示したココレレの持つ黒い石。...それは超純度の“反ポラリス石”だったのだ。この黒い石は、驚くべき大変な謎を秘めていた。
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2001/08/10 Fri |
もう少しシャングリラ島の解説をしよう。
みなさん蜘蛛の飛行をご存じだろうか?
蜘蛛は自らの糸を風にたなびかせ飛行する。コントロールは一見風まかせだ。風を読める者にだけ、どこにたどり着くのかがわかる。
蜘蛛ほどの達人になると予想を裏切るような、運命を試し、楽しむかのように強風に糸を出す。
この島のコントロールは尋常ではない。時空に充満するエネルギーに糸をだす蜘蛛のように、あらゆる場所、時間を航行して、何ごともない。超絶複合したコギリの波動が、このコントロールを可能にしていた。
今まさに、ここに登場したココレレが持つ黒い石、“反ポラリス”の存在は、今、このことに真っ向から渦を巻く、謎の予感でしかなかった。
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2001/08/10 Fri |
パンロゴは湯から上がると請われるまま、福禄寿の先導でムキたまごの“ まうまう ”と東屋に向かった。
石畳はけっこうな上り坂になっていたが、福禄寿はするするとなんの抵抗もなく登って行った。
このシャングリラ島には,島の頂上、中腹、下段、の3ヵ所に東屋が在ったのだった。
向かうは、その下段、混沌亭だ。
温泉のパワーはスタミナも補強してた。滑るように登る福禄寿にも、パンロゴ達は、なんなく着いていくことが出来た。
「ね、温泉はイイでしょ。パンロゴさん。」
まうまうが言った。
「いま、馬でも出てきたら曳倒せそうですよ。ははは。」
パンロゴは力コブをつくってみた。
「ファイト〜!」
突然まうまうが叫んだ。
「いっぱ〜つ!ははは。」
間髪を入れずパンロゴが返した。
「へへへ、わたしはコレ一本です。バ〜ァ!」
まうまうは再び顔を、ムキたまごにした。こうしてアソんでる内にきつい綴れ織りの道が終わった。
しばらく行くと細い石段の道は平らになり、道の両側から神々しい欄の花の香りがたちこめた。
東屋の入り口上には、おもむきのある、古色ゆかしい“混沌亭”の額が差し掛けてあった。
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2001/08/14 Tue |
混沌亭は呑めや唄えの大変な盛り上がりの最中だった。
一歩中へ入ると信じられない広さで、大勢の天女や童が、扉を開けたパンロゴ、まうまうを、地鳴りのような観声で迎えた。
お立ち台では恵比寿様はじめ、七福神がうちそろって踊りを舞っていた。
パンロゴを見るなり、大黒様は手招きをして誘った。軽快に“シピリンピリンパ”が打響いて来た。
リズムに乗った弁天様はフラフラ空中に浮遊しながら、まうまうの頭にあぐらをかいてそのまま留まってしまった。
「わたし、ムキたまごに乗るの大好きなの〜!」
弁天様が囁いた。
「な、なんです〜ぅ?」
まうまうが笑い泣きのステップを踏んだ。
福禄寿もさっさと輪に入り、パンロゴ手踊りをはじめた。毘沙門天、寿老人、布袋様、みな、まさかと思う軽快な足さばきで次から次にフロアーに入場してくる。
げっ!ここはディスコ?!
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2001/08/14 Tue |
いったい、この静かなシャングリラ島の、ひなびた東屋“混沌亭”が、こんなに燃え上がるディスコと化しているのを誰が知ろう?
やがてパンロゴパーティーの盛り上がりが最高潮に達しようとしていた。
と、突然、照明がマリンブルーに変化し、2台の木琴が向かい合わせに並んで降りて来て、えも言われぬ音で演奏を開始した。混沌亭は水を打ったように静まり返った。同時に2人の天女が飛行を始めた。
透きとうる衣がゆっくり空間を舞い、2匹の美しい魚がからんで戯れるようだった。
天女2人は、不思議な微笑をうかべ、顔は違うようで同じ、...まったくどちらがどちらなのか判断がつかなかった。
やがて激しい木琴の電子音のような強烈なパルスに、混沌亭そのものは渦を巻き始めた。時空を離れ、重力を忘れ、強烈なパルス を出すパルサ−星の存在になってた。
え〜っ?星になっちゃったの?!
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2001/08/15 Wed |
ココレレはヨージェメの目の前にすわると、コギリの鍵盤を凝視した。ヨージェメは再び軽やかに演奏し始めた。いつのまにかタコのハチロー、スケハチも横で正座して鍵盤を見つめてた。マスターオブレンテーは庭の縁に仁王立ちして鍵盤を見つめてた。
ヨージェメの弾く鍵盤はひとつの映像を映し出していた。
クリ−ム色の、柔らかいスポンジ状のテクスチャーが浮かんだ。その上に赤い円筒形のつやつやしたモノが現われた。そして波打つライトグリーンの不思議な壁の隙間から、イエローのペンキの滴りが見えた。
「ホットドック!」
スケハチ、ハチロー、ココレレ、マスターオブレンテ、が同時に叫んだ。
「正解。」
ヨージェメが言った。
次につややかなアイボリーホワイトの壁が現われた。
「ココアだ?」
ココレレが言った。
「ん〜、正解。」
ヨージェメが言った。
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2001/08/15 Wed |
“ホットドック”が“ホットドック”として理解されるということはなんと不思議なことだろう!
巨大に拡大された1つ1つは“ホットドック”ではない。
なにものかが“ホットドック”を望んでいる...?
ココレレが“ホットドック”を思ったから現われる?
ヨージェメが“ホットドック”を先き読みする?
それともすべて同時なのか?
およそ物事が起るというはっきりした輪郭が取り払われ、鍵盤とバチが鏡のように残った。
存在に輪郭はなかった...。
まるで人間が問題としてきたことがいともたやすく、ここ、シャングリラ島では破られていた。
なにものも自ずからな姿で在った。
ココレレはココレレでなくココレレで在った。
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2001/08/16 Thu |
しかし現実のホットドックにはかなわない。ココレレ、ハチロー、スケハチ、マスターオブレンテーは、目を思いっきり開いて、パンクするほどホットドックをたいらげた。食欲は神聖だった。
自然に空腹があるからこそ、食されるものは輝きを増す。
そして食べれば満足がおとずれる。この単純さは神秘だった。
ヨージェメのまわりには神聖さを漂わせて、次から次へホットドックが降り注いだ。
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2001/08/16 Thu |
数奇な運命を歩んできたサンコニャは12歳だった。生まれ落ちたときにはもう、運命の波にさらわれていた。王子となった今もそれは変わりなかった。ココレレと出会うまでは一言の言葉もしゃべることがなかったのだ。
“生まれ出ないはずだった”。
このことこそ恐ろしい宿命はなかった。そして隙あらば、“無”や“死に神”がことごとく攻めこんで来る。
12歳のサンコニャには、この上なく過酷な運命であった。
宿命を撃ち破る力を援護する“動物神”猿神はサンコニャを全力でかばった。
このようだが、サンコニャは自分の運命を一度たりとも呪うことはなかった。
この成りゆきを、“シャングリラ島のウラン”はいっぺん漏らさずすべてを理解していた。ウランの泉のような慈愛の波動には、重い宿命を負ったものほど癒されたのだ。
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2001/08/21 Tue |
ココレレの心にひとつの確信が浮かんだ。
そうだ、これをヨージェメに聞いてみよう!
「ヨージェメ、ホットドックはどこからだしたの?」
「ココレレ、よく聞け。木琴をたたくからホットドックが降ったんじゃないぞ。」
ヨージェメは続けた。
「樹の根が、ほんとの流れをつかむと、莫大なエネルギーを吸い上げられるんじゃ、水はその道筋にすぎん。」
「やっぱりそうなんだ!」
ココレレは目をまんまるにした。
「深いところから湧き上がる、不思議な波動のようなエネルギーをヨージェメは容易に木琴を介してコントロールできるんだ。」
ココレレは思った。
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2001/08/22 Wed |
ウランはサンコニャの前にひとつの球をとりだした。
あかんぼの頭ほどある水晶球で透明感に満ちていた。
「この球をよ〜くごらん、サンコニャ。」
ウランが言った。
「あ〜っ?!」
サンコニャはおもわず叫んだ。
小さいころから、何度も、何度も見た夢を思い出した。
いまのいままで、何百回となく、くり返し見た夢を思い出した。
暗闇に自分が光る夢だ。
そこには、無数の魂が暗黒の中で鋭い光りを放っていた。
「あなたのほんとの姿はここにあるんですよ。サンコニャ。」
「あのひときわ鋭く輝く星があなたたちです。」
ウランが言った。
「僕とココレレ?」
サンコニャが言った。
「そう、この星は、元は双児の2重星です。いまひとつはブラッホールに呑まれているのです。...よく見ると暗黒がとなりにありますよ、サンコニャ...。」
サンコニャは、ブラックホ−ルに透明で懸命な輝きが見えたような気がした。
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2001/08/23 Thu |
マスターオブレンテとハチロー、スケハチは、ホットドックを無心にムシャムシャかじってた。 マスターオブレンテーのコルトがいきなり火を吹いた。
庭の松から黒ずくめの影がポーンと飛んで逃げた。
「ホットドックはやらね〜ぜ!西インド会社のヤツラだ。」
マスタ−オブレンテ−が言った。
「よくこんなとこまで来ますねー。チャプテン」
スケハチが言った。
「秘密を盗みに来たんですよ、ポラリスの。」
ハチローが口を尖らせた。
「よく入って来れたもんじゃな?この島に。」
客が言った。
「あいつらは人間じゃねーぜ?!なあ、スケハチ、俺のコルトをよけやがった!」
マスターオブレンテーが言った。
「あい、あれは“ムーピー”です、チャプテン。なんにでもなれるイキモノ、善悪がわからないデス。それにすごく素早い。」
スケハチが言った。
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2001/08/24 Fri |
マスターオブレンテたちはホットドックをムシャムシャ始めた。
ふたたびココレレとヨージェメの会話が始まった。
「それでの〜ココレレ、サンコニャはどこにおるか知ってるか?サンコニャはこの“シャングリラ”に居るぞ。」
ヨージェメが言った。
「え〜?!会いにいかなきゃ!」
ココレレは飛び上がった。
ココレレは、あのテマの市場で出会った瞬間にサンコニャとは、次元を吹き飛ばされ、別れてしまっていたのだ。
「暗黒の力がお前達2人を出会わなくさせているんじゃよ。」
ヨージェメが言った。
「俺にまかせとけ、ココレレ!“アンコ”は得意よ?!」
マスターオブレンテが言うや、ハチロー、スケハチが口を揃えて言った。
「チャプテン、“暗黒”で〜す。」
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2001/08/24 Fri |
「よし、わしが電話してやる。」
ヨージェメは部屋の違い棚にあるレトロな黒電話をとった。
「あ〜、あのなあ、もしもし。ウランかの〜?わしじゃ、ヨージェメじゃ。そこにサンコニャがおるじゃろ?ココレレがここにおるぞ〜!どうじゃ3秒以内にこれるか?」
「え?じーちゃん、3秒は無理じゃろう?」
マスタ−オブレンテが言った。
と、そのとき奥の四季山水の襖が静かに開いた。
ウランとサンコニャがそこに居た。
「あ、サンコニャ?!」
ココレレが言った。
「ココレレ?!」
サンコニャが飛びついた。
2人は抱き着いたままグルグルまわった。
ココレレの持っていた黒い反ポラリス石がこのとき、強烈な黒い光をはなった。
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2001/08/29 Wed |
黒い光?!神秘の見たこともない暗黒の輝き...。
そこに、樹齢何千年だろう?巨大なアブラヤシが現われた。その葉は天を覆いつくし幹の太さはどれほどあるかわからなかった。それは生命の王者の風格をたたえていた。そしてその王者は言った。
「ココレレ、サンコニャ、やっと出会えたの〜。わしゃうれしいぞ〜!」
巨大なアブラヤシは根をふるわせた。
「何億年、いや、何十億年待ったぞ〜。」
アブラヤシの巨大な顔がしゃべった。
「お前達2人が出会わんことには何ごともすすまんのじゃ。わしの小鳥達よ。」
前代未聞の展開に、ヨージェメ、ウラン、もあっけにとられてた。
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2001/08/30 Thu |
「わしはこの世が出来る前から、ここにず〜っと在るんじゃあ。ココレレ、サンコニャ。...お前達進化を遂げるイキモノたちが、小鳥のように住み着いて、花を咲かせ、いろいろ楽しませてくれるのがうれしいんじゃよ、わしは。」
アブラヤシはなんとも言えない深い温かみのある声で言った。
神秘をたたえた暗黒の光りは、渦を巻き、強烈に輝いていた。
アブラヤシの根は、恐竜の骨格のように大地から立ち上がっていた。その巨大な幹には、恐ろしい顔や、苦痛の顔、泣く顔、眠る顔あらゆる顔が動めいていた。そしてその黒い巨大な葉は神秘の宇宙空間に泳がせていた。
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2001/08/30 Thu |
無数にあるアブラヤシの実のひとつが異様なオレンジに輝いた。するとそこから空間を開くようにしてパンロゴが現われた。
「あ〜っ?!パンロゴ〜?」
ハチロー、スケハチは口を開いたままあっけにとられた。
「ティンタン、タンタタ。ハ〜イ?!、ひさしぶりだね、みんなゲンキ〜?」
パンロゴが挨拶代わりにパンロゴを鳴らしながら出て来て言った。
「パンロゴ?お、おまえ、いったいどこからきたんじゃ?」
マスター・オブレンテは目をギョロつかせて言った。
「“コントン”へ行って来たんだ。みんなノリがいいヨ。」
パンロゴが言った。
「な、なんでそんなところから現われる?」
マスター・オブレンテがいぶかしんで言った。
「オラにもよくわかんね〜。それにオラのからだはもともと木だからね〜。」
「“オラ”っておまえ、なまってるぞ〜?」
オブレンテが言った。
「ノリにノって、10億光年いなかのパルサー星までいっとったん。いがったよ〜。へへへ。」
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2001/08/30 Thu |
シャングリラ島に反ポラリスの神秘の輝きとともに出現した生命の王者“アブラヤシ”。
それは、存在の概念を根こそぎさらってそこに君臨していた。
およそ、この“アブラヤシ”の存在自体が神秘であった。
そして、アブラヤシは自ずから、その名を『アフリカ』と名乗った。
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2001/08/31 Fri |
アブラヤシ“アフリカ”の巨大な顔は、とてつもなく太い幹から葉の出ているところにあった。そのおおらかな顔から輝くばかりの黒い光が笑顔となってあらゆる方向にこぼれていた。
神秘の「黒い光!」彼はなにもんだろう?!
次元と宇宙が出来るず〜っと前から“アフリカ”はいたのだった。
彼は、およそ始まりという概念をはずれていた。
...“死に神”も“無”も、後から誕生したものだった。
「わたしを開くな!」
“アフリカ”は言った。
彼は、はじめから開かれたものとして在った!
ヨージェメが“アフリカ”を讃えるコギリを高らかに鳴らし始めた。パンロゴがリズムを乗せ、ココレレ、サンコニャはじめ、みんながコーラスを歌った。心底のよろこびと勇気が湧き上がってきた。
これが“アフリカ”のたましいだった。
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2001/09/03 Mon |
アブラヤシ“アフリカ”は形而上の比喩ではなく、実在していた。
アブラヤシというのは、実も幹も葉も、その木陰も、人々にとってすべてが役に立つ木であった。汲んでも汲み尽くせないその優しい存在が、周りに人々を自然につどわせた。
その黒い神秘の輝きはどのようなものにも、みずからをあたえ、恩恵をあたえ続けた。
“アフリカ”はそのように今も在った。
ココレレは、ジュジュの村を出て見た夢の最後を思い出した。それは“あかんぼ”の夢だった。
シャングリラの上昇気流にのった2羽のわしが、旋回しながら高く昇って点になった。
おわり
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