天頂の惑星


第四部 ブラックスタア


No.137

ニマの貧民窟の中を流れる川は、川と言うにはあまりにも様相が違っていた。
V字のえぐれた部分にあらゆるゴミが捨てられその最低部を水が流れていた。
すえた臭いが辺をおおっていた。
そこに掛かる木造のゲタバキ橋のたもとで、木琴を演奏する者が在った。
一人の若い男がたたいている。

速い演奏からゆっくりなベースのメロディが聞き取れるのが、なんとも不思議な演奏で、
伝統的な曲は、あたりの貧しい風景を一千万画素のカメラで写し出す様に、
ひとつひとつのゴミの死んだ成れの果てを克明に映し出していた。
この様に書くと不思議だが、まさに、曲は、用を終えて打ち捨てられたモノのためにあった。
累々たる死者を鎮魂するように、うち捨てられたままのゴミの形態は、
無惨な現世を、そのままの姿で写し出しているのだ。
そうそうに神は撤退しているのだ。
何処にも救いは無かった。

そこに丁度通りかかりの年輩の男が、さい前より橋の中央に立ち、音に耳を傾けていた。
木琴を弾いていた若い男はおもむろに顔を上げた。
演奏の手を休めると、対岸を見上げた。その対岸には一本の高い木が青々と緑陰を広げていた。

「見事な演奏ですね。ここは、このあたりでももっとも貧しいところです。
何故、此の様なところで演奏されるのです。」
年輩の男が橋の中央から問いかけた。

「私の木琴をもっとも欲するのも此処なのです。」
若い男は持っていたビーターでV字のゴミの谷を差した。
川下からすえたアンモニア臭が吹き上がってきた。
男の名は、ココ・バエレ。年は二十七歳であった。

No.138

聞いた年輩の男は、橋を渡り切るとココに挨拶を交わした。
「私の名はテル・ドウモン、日本人です。とあるものを探して長い旅に在る者です。
歳は今年で五十七歳になります。この母なる地アフリカから、沢山の思いもよらぬ教えを乞うております。」
一礼すると鬚面の中の口が笑った。

「もう少しお話を伺いたい。今、欲すると言いましたが、この累々としたゴミの事を申されたのですか?
一体あなたの音楽を、何故これらが欲するのです?」
するとココは、まじまじとテルの目をみつめて言った。
「僕にも分かりません。ここで弾くと何かが込み上げて、泣き出しそうな気持ちがしてきます。
しばらくは、途方も無い満足する気持ちが続くのです。」

「そうですか。私の思った通りです。」
テルは満足げに深く何度もうなずいた。
テルは橋の下を駆け下ると服を脱ぎ汚水の川に分け入り、禊ぎをした。

「そうですか。木琴の音楽はそこまでボーリに愛されているとは驚きです。」
ふたたび汚れきった民族衣装のフグを被ると、ゴミの斜面を登って来た。
「ボーリをご存知なんですか。」ココが遠くを見るように目を細めた。

No.139

このような場所での出会いは不思議なものである。
テルはしばらく木琴に聞き入っていた。

これは『音楽』と云う様なものではない。
いったい何なのか?
感情的な感動では無く、途方も無く存在を癒される事に気づいた。
訳は分からない。

聞くうちにテルは突然、たとえ自分の長い旅も道半ばで終わるとしても、それは構わないと思えた。
それは挫折とは違う。諦めの気持ちは無いのだ。
このうち捨てられたゴミと汚水の川は、そのまま、救いも無ければ何も無い。
そのものの存在を変えられない。
だが、それだからこそ、この癒しの音はすみずみまでとどいてくる。涼風のように行き渡る。
救いは無いはずだ、なのになのに感謝が来る、…分からない。

「ココ、君は何処でこの木琴を覚えたのだ。」
「これは、北のサルーの故郷にいる時に、じいちゃんが教えてくれたものです。」
「ほう、それにしても、すばらしい腕前だ。君はミュージシャンか?」
「いえ、違います。夜警の仕事が有る時には、その仕事をしてますが、一週間に一、二日程度です。」
「それでは、食う事も難しいな。家族は?」
「女房と、あと子供が一人居ます。」
「聞いて悪かった。俺にも子供が一人居たが、今頃は成人してるはずだ…。イワオという名だ、忘れた事は無い。」
「君にとって、木琴とは何だ?」
「僕にとって木琴が無ければ、生きて行けない、生きる事が出来ないものです。木琴が僕を生かす。」
「そうか。君にあの栄光のアフリカの星が輝くように。機会がまた俺たちを遭わせるかも知れん、さらば。」
テル・ドウモンは、ニマの迷路のような貧民街に消えて行った。

No.140

ココは不思議な気持ちになった。自分とは親子ほども歳が違う、国も人種も違うが、
何かとても懐かしい感覚が身体に充ちて、放っておけない気がした。
テルの後を追って、迷路のような路地を先回りして、魚を路上で売るオヤジの前で追いついた。
「ココ、どうした?」
人なつっこいテル・ドウモンの目はダイヤモンドのように異様に輝いた。

「ええとね、あんた探してると言ったね、何?何探してるの?」
「ああ、…そう、探してる。探し続けてる。」
「何?」
「宝石だ。」
「宝石?ダイヤか。」
「正確には、宝石じゃない。隕石ガラスと言ってな、隕石が落ちたときに高温にさらされ出来たガラス状の石だ。不思議な物さ。先週市場で、目くらの木琴たたく男が居て、ちょっと前だが見たというんだ。ほんとかどうか、だが、一杯おごってやったよ。マンボビあたりの、木琴弾きの老人が紫に輝くのを持ってるのを見たという噂を聞いた。」
「あ、テジャンだ!」
「どうせ期待はしていないがね。俺の探し物は、強烈に光るやつだ。昼間にも天頂に輝く伝説の星の様にだ。」

「テジャンなら、ソレ持ってるかも知れねえ。うーん、あいつの木琴はただごとじゃねえからな。一緒にやつの家に行こう。」
魚を売ってた男が、魚をそのままに歩き出した。
「これだから、アフリカは楽しいな。人ごとじゃないからな。」
テルが楽しそうに髭面をほころばせた。
「おれも、テジャンには世話になっている。金がない時に金をくれたりする。」
傍らに居た乞食の老人も歩き出した。
細い迷路の真ん中にドブの在る道を、急ぐでもなく一行はテジャンの家へと向かった。
イスラムの塔のスピーカから、コーランの朗々とした詠唱が貧民街の空に漂った。

No.141

ぞろぞろと路地から見晴らしのきく路に出ると、
ゆるやかな起伏の上に密集している町が一望された。
道はゆるくうねり、大勢の人間が、これといった用も無いのに行き来している。
長椅子に、二、三人腰掛けて、何となく見ている者もいる。
いや、よく見ると、おとなしく座っている者も、眠っているわけではない。
皆、何がしかの用件は有るようだがよく分からない。まったく気にしない風である。

突然大声が上がり、家から子供と親父が路に飛び出してきた。
走り出た子供は、襟をつかまれ捕まった。
何か不始末でもしたのか、凄いけんまくで、親父が紙の束で子供の頭を二三発殴った。
わっと何人もの人が止めに入ると、すぐに収まるのがおもしろい。
「わはは、俺の育ったころの日本だよ、こりゃあ。」
テルは大笑いをして、子供の頭を撫でた。
ココは細い路地を曲がった。テルと、魚屋と乞食と子供も曲がった。
ピンク色の長い壁を抜けると、明るい木琴の音がぐんぐん近づいた。
「テジャン。」

No.142

そこに初老の男が木琴を弾いていた。
中庭にある木の木陰から木漏れ日が降り注ぎ、木琴の鍵盤に落ちて揺れていた。
まるで、其処に泉が在るごとくに音楽が湧いている
何とも自然の音楽だ。

テジャンは、ココ達が入って来るのを見るなり、
鍵盤にビーターを置いて立ち上がり、大きな声を上げた。
「ココ!やー、よく来たな。やあ、魚屋じゃないか、商売はどうだ?
お前さんは、おもらいさんだな、かかか!、元気にやっているか?
ぬ?この東洋人は誰だね?」
年季の入った黄ばんだランニングシャツからすべすべの黒い腕が覗いて、
太くてでかい声の早口に追いつくように、激しく身振りをしている。

「テジャン、日本人だよ。テル・ドウモンだ。この当りで何か探しているんだ。
橋のたもとで、木琴をたたいていたら出会ったんだ。」
ココが握手を交わしながら言った。
「やあ、ジャパニーズか。何だ、何探しておる?この貧しい町で。
君らの欲しいものは何も無いだろう?かかか!」
「ははは、お会いできてうれしいね。
こういう風なゲージツ家は好きだよ。
あんたの音楽は気に入ったね!実にキレイだ!こんな町にこそふさわしい!
ああ、久々の楽しさだ!」
「かかか!まあ座れ。」
テジャンは、顔の片側を歪めて大笑いした。

一行は、女の出してきた木陰の下の長椅子にそれぞれに腰掛けた。

No.143

「テル、わしはあんたが気に入ったよ。あんたがジャパニーズなら、特別いいものを見せよう。」
テジャンは家の中に入ると何か黒い箱のようなものを持って出てきた。
テルは、胸騒ぎがした。何か巨大な歯車がガンと組合い、目の前で回りだした気がした。

「これは、テープレコーダーだ。」 
「そう、わしが40年前に日本に行ったときにもらったのだ。」
「問題はこっちだ。テープだ。」
「録音したのは、わしだ。これはわしの演奏だ。」
「うーん、すばらしい演奏だね。」テルは聞き入った。
しばらく聞いている内に、目の前がネガのように反転して強烈な光線に満ち溢れた!?
テルは自分にだけ見えるのかと周囲を窺った。
いや、皆に見えている。
いったい何だ?これは!
…天国と地獄が見えている。
空間が破れて、真っ黒の奇妙な光源がパノラマの中から鋭い光線を浴びせかけてくる。
「どうした訳だ?この光景は真実か。摩訶不思議!」テルは怒鳴った。
「ブラックスタアだ。」ココが口の中でつぶやいた。
「わしにも、天国と地獄が見えますぞ。」乞食が立ち上がり、その裂け目の方に手を伸べ歩き出した。
魚屋は目玉を丸くして仰天し、その場に伏せた。
子供もそこに座り込んで両手で頭を押えた。
「何故です?何です、この現象は?」テジャンを見てテルが言った。
「ブラックスタアだ。」
「ブラックスタア?」
「ブラックスタアという曲を弾いているのだ。」

 

No.144

そのうち、中の空間に大きな翼竜のようなものが滑空して横切った。
天は輝かしいばかりに日差しを投げかけるが、それは激しければ激しいほどネガの様に黒いのだ!
テルは、見たことも無い裂け目から覗く光景に魅せられた。
テジャンは誰も聞かないうちから、喋りはじめた。

「この曲は、わしはもう弾かないことにしている。だから、これを持ってきたのさ。
どうだ、見えるだろう?凄いもんだろ。まあ、見えるだけだがな…。
ジャパンは神秘をとても大事に愛する国だ、テル、いいものを見ただろう?
向こうに行くにはやっかいだがな、
ここでは、この世界に行き来するやつも居るのさ。」

「…いったい、この世界は何だ?テジャン。」
確かに見えるだけで、手を差し伸べると雲をつかむように消える…。
しかし、境目がはっきりとしていないのだ。
「あ!俺がいるぞ!?あそこだ。」テルが思わずそこに駆け込むようにすると、すべてが消えた。
「かかか!残念だな。見えるだけだと言っただろう。」
テジャンは、女の出してきたネスカフェのインスタントコーヒーをニヤニヤしながらすすった。

No.145

「わしが演奏したもので、こんなことが起こったのは、これだけだ。
いったいどうしてこうなったか、わしは知らんが、どうだ、楽しいだろう、テル、かかか。」
テジャンの目が楽しそうに笑った。
「これは、曲と関係あるのかい、テジャン。」
「ああ、あると思うが、この曲は、弾くとろくなことが起きんで、今は弾かんよ。
一度などは、爆弾を投げられて、隣でベルを叩いていた男の足が吹っ飛んじまったよ。
まったく危ないものだ。
だが、こうやって、テープで聞くと、危ない事は何も無い。かかか、楽しいだろう?」
「テープで見えるって事は、あんた、木琴の演奏中は、こんなところやあんなところが見えるのか、いや、そこに行っているのか?」
「かかか、まあな。しかし、別に危険は無いよ。」
「そうか、テジャン、あんた歳は幾つだ。」
「六十八歳だ。」
「俺は、今年で五十七歳になる。テジャン、木琴弾きはいろいろあって楽しそうだな。
だがくたびれないか?このぐらい生きてくるとうすうす分かるものがある。
どうだ?自分の来た道がだんだん淋しくならないか?
あとの短い間に、何が出来ると思うことは無いか?
俺は、あるものを探し続けてうん十年だ、くたびれた。」

「荷をおろせ!テル、人間はあせらなくても必ず迎えが来る。
何もなしとげんでもな。ありがたいと思わんか。
歳になるとどんなやつでも、夜中になればあとなんぼ生きられるのか指折り数えておるよ。
生きて見つかるものが必ずイイものとは限らないぞ、探し物というのは探さなくなった時に見つかる。かかか、
お前の探し物は何だ?」
テジャンはコーヒーをすすり飲んだ。

No.146

「それにもう一つ、お前さんの国じゃ考えられんだろうが、ここアフリカでは、何か成し遂げて死ぬなんて考えはもうとう無い。かかか。」
テジャンはコーヒーにミルクをたっぷり注ぎ足した。
「ズビビ、いのちはわしらにそんな時間を与えない。
ところがだ、
何かを迷うひまはないが、天然の時間というものはたっぷりあるのがアフリカだ。
大きな木の下で、ゆるみきって昼寝する人生もいいもんだ、テル。
ふむふむ、おっと、で、テル、あんた何を探しているんじゃと?」
テジャンは、あわててコーヒーをすすり上げ、顔の反対側をつぶして笑った。

「わはは、テジャン、まいったな。
そう言われては、俺の探し物など言い出しそびれるよ。
俺はのんきな事は大好きなんだが、心底安心していられない性分だ。
ゆるんだ時間とふんどしは、どうも納まりが悪い、わははっは。
俺が探しているのは、玉は玉でもガラスの玉だ。
そんなつまらんものと思うなよ。
そのつまらないものを探し続けるのが俺の人生だからな。
…俺が探しているのは黒い光を放つガラスの玉だ。
テジャン、心当たりがあるだろう?」
テルは喋りながら、そばの子供の頭を掻き毟るように撫でた。

No.147

「テル、あんたの探しているものは、トンでもないもんだぞ。そりゃブラックスタアだ。」
傍らで聞いていためくらの乞食が、勢い込んで立ち上がって言った。
「ブラックスタア?」
「そうだ。今見ただろう?」
「あれがか?」
「そうだ。俺たちには見える!めくらの俺たちには見える。」
「ガラスの玉は何処だ?」
「いひひ!言ったろう、あれだ。あれ自体が、お前さんのガラスの球だ。」
「あれがか?」
「難しい話じゃない、ブラックスタアは、めくらの当たり前の世界じゃ。
群盲、象を撫でるという言葉が在るなあ、
それ、目が見える人間の話だ!
見る世界にいるお前さん方には、自在な球や黒い光は理解できんじゃろう?
なあ、テジャン。」
「かかか、コーヒー飲むか?ジョロボ。」
「僕にもくれるの?」
「お前じゃない、お前はまだガキじゃろ。」
「ジョロボは僕だよ。」こどもが大きく目ぐりぐりさせた。
「なんだ?お前の名前もジョロボか?うしし、一杯くれ。このガキと神に祝福を!」
めくらの乞食は、手探りでテジャンの傍らにすり寄った。

No.148

「さっき俺が見たのは、広大で鮮烈な世界だった。
それは世界なのか?宇宙なのか?」
「ひひひ、いや、ただのガラス玉でもある。ずびびびぃ」
めくらの乞食ジョロボがコーヒーをすすりながら言った。
「いひひ、…その玉が欲しけりゃ、この坊主の頭を撫でてみろ。ぐびび」
テルはもう一度、そばに居た子ジョロボの頭をクシャクシャした。
撫でながら、乞食のジョロボのカップを横取りすると、一口二口飲んで返し、言った。
「こんなことで、出てくる玉か!?
俺は探すと言ったが、このかた、日本、そしてヨーロッパを彷徨って、やっとのことで見つけたと思っていたものは真っ赤な偽物だった!
こうしてアフリカの地を訪ね始めたのは、中年からだよ。」
と、話終わらぬうちに、木陰のテジャンの木琴の上に黒い玉が転がり、コリンコリンと音を立てた。
なんてことだ!木琴で遊んでいた子ジョロボの頭上から、玉は転がり出たのである。
テジャンが拾い上げて言った。
「かかか、これは本物だぞ、ココ。」
「むひひ、ブラックスタア万歳!一杯のコーヒーが幸せを呼ぶ!」
乞食のジョロボがカップを上げた。
「ほんとか?テジャン、手に負えんな。これをもらってもいいか?」
「ああ、いいともテル、あんたの探しているものかも知れん。ここに在る、ガラス玉ならやるぞ?さあ、これだ。」
テジャンから渡されたものは、石炭のように真っ黒だが、向こう側が
凝縮されたように透けて見える不思議な玉だった。

 

No.149

「いったいなんて事だ。
私の最高の目的は、なんと安易に入手されたのだ!」

「かかか、まるで向こうの方から訪ねて来たようだな、テル。
こんなことが信用できるか?」
「というと…。」
「そう、ブラックスタアとは油断ならぬものですよ。私が試しに、あの曲を木琴で弾いてみます。」ココはすでにビーターを持って、木琴の前に座っていた。
「…ブラックスタアとは、何なのです?」テルは深く、その黒い玉を覗き込んだ。

「かかか、頼むぞ、ココ。ブラックスタアはまったく一筋縄ではゆかんで、わしは動かぬ。」
テジャンが、ちり紙で耳栓を詰めながら言った。
「オーケー、まかせて下さい。テジャン」
ココは軽くピーレを演奏した後、問題の曲にすぐさま突入した。
「ブラックスタア万歳。目を開けて見えるモノの、何から何まで陽炎であることは、誰も信じまいな、いひひ!」老ジョロボが怒鳴るような大声で言い放った。

ココが演奏を始めてすぐ、テジャンの中庭に行脚の僧のような男がづんづんとやって来て、
わき目もふらずにテルの前に立つとこう述べた。
「貴様の命は、あと、四十九日。せいぜい楽しむがよい。」

No.150

そう言い終ると、持っていた長い杖の先で地面に何かを描いた。
「これが分かれば、助からんこともない。」
テルはといえば、うそぶいた様な顔でうんうんうなずき、顎鬚を撫でていた。
庭を一回り眺め回すと、男は立ち去ってしまった。
何か、記号に見えるが、見方によると、キツネに似た動物のようなものが線描で描かれていた。
「始まったな、かかか。」テジャンが口を押さえて笑った。

ココの演奏が激しさを増すにつれ、黒い玉は異様な光を帯びてきた。
爆発的な光とともに、その図形のような動物が、立体化してテルの目の前に現れた。
「俺は、ボーリ様の眷属、コントンボリだ、俺をなぜ呼び出した?事と場合によってはただではすまぬぞ。」
「呼び出したって、あんた勝手に出てきたぞ。」テルは一歩も引かず正面から答えた。
「そこに在るだろう?ブラックスタアだ。玉の前でこの曲を弾かれたら、俺たちは出ることになっているのだ。分かるか?人間。」
「わはは、出囃子かい!いひひひ、はははは、腹が痛くなる。」テルは大笑いをした。

 

No.151

「貴様、死が怖くないのか?」コントンボリが言った。
「俺は、ここに来るまでに何度も死に直面した。その度に死を覚悟したよ。
死の覚悟なら売るほど有るのだ。」テルが動ずることがなかった。
「面白い。命乞いをしないのなら、貴様の願いを聞いてやろう、なんなりと願いを一つ言え。
叶うかどうかは、半々だ。つまり五割だ。それがコントンボリの貴様への慈悲だ。」

「そうか、それなら俺の出生の秘密を教えろ。なぜ俺の宿命は、玉探しにあるのだ。」
「それは言えぬ。願いには成らぬことだ、貴様が選んだことでもある。己の胸に聞け。」
「そうか、それならボープラを呼べ。」
「何だと?貴様知っておるのか?ボープラ様を。」
「ああ、いのちと引替えだ、良いも悪いもボープラを呼んでもらおうか。」
「よし、召喚してみよう。しかし、来るか、来ないかは、貴様の運に懸かっておる。」
コントンボリは何やら空中になぞり、ふぅ、と息を吹きかけた。
轟音とともに、何もかもがいっさい吹き飛んだ。

森の真ん中の広場にある古い祭壇の前には、三、四体の木片で出来た人形、木琴を叩く像、それに、耳にちり紙の詰まった古い彫像、などが乱雑に置かれて在った。

No.152

ボープラとはボーリの眷属で最強のものである。しかし、たやすくは登場することは無いのだ。
ボープラを呼び出して願いを叶えて貰いたければ、年の初めより、歌や踊りで、招聘を続け三ヶ月から半年掛けて、徐々に機運を盛り上げてゆき細心の注意で招聘しなければ、呼び出した者の命も危ないと云われている。しかし、ボープラのその力は絶大で、死を願えば、誰も確実に願われた者は死ぬというほどのものである。

「コントンボリ、貴様、誰に対して召喚を掛けておるのか分かっておるか?」
地の底から揺らめくような声が聞こえた。
コントンボリは、あっけにとられ、ひどく取り乱した。
そして、散乱している人形や、偶像や、木琴の置物を、祭壇の前に正しく並べ直すと叫んだ。
「テルというこの者は、近づく死を恐れませぬ。人間にしておくのはもったいないぐらいですので、願いを一つ言え、と言いましたところ、ボープラ様の名を口に致しました。
いやはや、心当たりは御座いますでしょうか?
何と、こやつはブラックスタアを持っておりまする。さらに、木琴の名人のテーマ曲も生演奏です。」

「テジャンか?」
「いえ、ココという若者ですが、しかし腕は立ちまする。」
「確かめてやる。」
大きな地鳴りのような声が、神域の大樹を震わせた。

 

No.153

ココはこの日のために、この曲の練習も密かにしていた。

ブラックスタアという曲は、もちろんテーマ部分のメロディや、ベースラインのフレーズは、はっきり有るのだが、あるところから、マジックのようにすべてが裏返るようになる。
最初ゆっくりのテーマリズムを刻んでいたベース側が、いつのまにか、早い裏打ちのリズムと化して、主旋律はその合間を縫うように、そのまた裏側を、とてつもなく速い速度で駆け抜けるのだ。これは奏者自身をも幻覚に陥らせる。
そのぎりぎりの忍耐が破れたときに、ボープラの怒りは爆発するのだ。
名人とうたわれても、この世界の裏の裏の裏を、そのすべてを保持することは至難の業となる。
ブラックスタアとは統合なのである。
分裂したままの統合と言ってもよい。
だから名人のテジャンでさえ、この曲の演奏には恐怖を感じたのだ。

テルは、それをココから聞き、しばし沈黙したままになった。
「俺がブラックスタアを求めていたとは、分裂したままの統合を求めていたことになる…。」

 

No.154


ココとテルは、市場に近い夕暮れの雑踏を肩を並べて語らいながら歩いていた。
道の片側は西に開けて、日没が終わっても紫や黄金色の最後の光をかすかに残していたが、
それもすぐに消えた。
道の両側に並ぶ露店には、そこここにやわらかなオレンジ色の灯が目立つようになり、辺りの雑踏はそのままに、昔からのやさしい闇につつまれていた。
ココの顔は闇に解け、目玉と白い歯が時折笑うと、まるで闇夜が笑ったように見える。
「テル、あなたには、僕と年が同じ子供がいると言いましたね。僕のお父さんは、生まれたときに死んで居ないのです。どうか、僕のお父さんになってもらえませんか?」
「いまさら二十七にもなって、お父さんもないものだが、何かの巡り合わせということもあるな。そうか、俺にもお前と同い年の息子がいる、だが、幼いときに分かれたままだ。
よし、俺とお前は今から父子だ。これでいいいか?アフリカの息子よ」
「ありがとう、テル。僕の気が済みました。神の思し召しに感謝します。」
ココは本当の息子のように、テルの足元をなにげなく気遣ったりした。
二人は語らいながら、真っ暗になった道を歩いた。

No.155

「俺の命はあと四十九日しかないらしい。別にどうという事でもないが、俺はボープラに問いただしてみたい事があるのだ。ブラックスタアの真の意味だ!
それで、間よく出てきたコントンボリに願った。ボープラに遭わせてくれとな。
おれ自身が命を惜しむものではない、しかし、ブラックスタアの謎を確かめんことには死んでも死に切れん。」テルの足元には、何かほんのりした灯が先導した。
その光は玉から出ていた。
「俺は分かる。テジャンのこの玉は本物だ。」テルは興奮気味に続けた。
「ココ、俺はお前の木琴を聞いて感動し直覚したのだよ。あのゴミの川で禊をした時から、俺の覚悟は出来上がっているのだ、わが息子ココよ。
たとえ、どのような貧困と、苦難と、病気と、老いが、このアフリカのこの地に在ろうとも、
それは魔ではない。それは、正当な暗黒面の反対側だ。人間がいいものばかりをねだったツケだろう。」
「俺はボープラに問いただす!」テルはやわらかな闇に向かって怒鳴った。

「テル、ボープラは忌むべき腐れの神様だ。呼び出したりしたら大変なことになるよ。どのようなものも必ず死なせる。」ココが声をひそめて言った。

No.156

「コントンボリ、出て来い。薄っすらとさっきから足元を照らしているだろう?
僕らにゴマをすってもしかたないよ。」ココが言った。
すると、クルリと渦を巻いて、玉からコントンボリが現れた。
「むふっ、分かっていたのか。人間もすみにおけんなあ。」コントンボリの顔は、幾何学的な図形から、背の高い、伝統衣装をまとった狐顔の男になっていた。
「テル、コントンボリはお節介だと、テジャンに聞いたことがあるよ。」ココが、小声でテルに耳打ちした。

「おい、ボープラに会わせてくれるのはいつだ?」テルが大きな声で言った。
「あせるない。今、交渉中だ。」
「お前が、俺をあの世に連れてゆく役目だろう?あの世の入り口というのは何処なのだ?俺はひじょーに興味があるのだ。」テルはコントンボリに親しそうに肩組みした。
「貴様は風変わりな男だな。死ぬのも怖くない、私をあの世のお使いと聞いたら、入り口は何処かと尋ねる。少しは礼というものをわきまえたらどうなのだ。あの世の仕組みにも尊厳というものはあるぞ。たかが人間の分際で!」
「ははは、そうだったな。俺は、単なる人間の庶民だ。コントンボリ様、神妙に致します。
これでいいか?」
「うむ。よろしい。短い命を嘆くに相応しい謙虚さだ。」

「ところで、この玉の扱いだが、こうやって、この皮袋に入れたらどうなる?」
テルは背中にあった袋を手前に回した。
「うっわ!それは、キンキルシの皮袋じゃないか?
それだけは、勘弁してくれ!」
「キンキルシの皮袋?」ココが聞き返した。
「おお、反応があったな。そうだ、キンキルシという妖怪の金玉の皮で出来た袋だ。これは、伸びる伸びる、どこまでも伸びて破れない袋だ。精霊しか入れることは出来ない、おまけに中は凄い煙が濛々と立ち込めているそうだ。北のサバンナの村で、そこの百九十歳にもなる長老から譲り受けたものだよ。
精霊をどこにも行けぬように捕らえておける袋らしいのだ。がははは。
それどころか、もっと凄い役割もあるらしいが、そこまでは誰もやったことがないので分からぬと言っていたよ。
玉を捜しておるならこれをやろうと、呉れたのだ。わははは、冗談のような不思議だ。」

No.157

天空がにわかに怪しくなると、辺りに異臭が立ち込めた。
何もかもが腐り始めたような強烈な臭いとともに、ボープラの先ぶれとも思われる、キナ臭い小爆発が連続して起こった。
すると、地の底から響くような声がした。
「ジャポネーズ!キンキルシの袋をお持ちとは、恐れいったぞ。」
「うは!ボープラ様だ。こんなことはめったに無い。自らが進んでお出ましだ。」
コントンボリは驚いたように飛びのき、十メートルも下がってしまった。

ズザッ、ズザッ、ズザッ、
何者からが、墓地の方からぞろぞろと歩いてくる?
死者は墓から這い出て、腐った頭を持ち上げ、両の手を前に突き出してこちらにやって来る!
この数百人のゾンビを露払いとして、後から異様なほどの巨体をしたモノが現れた。
同時にそこは生ごみや、糞尿、汚物が振り落ち、得体の知れない異臭は極限に達し、異様な光景となった。
「ジャポネーズよ、お前は、ニマの汚れた川に禊をしたものだな?
わしは隠蔽されし神ボープラだ。ジャポネーズよ、そのキンキルシの袋こそ、この神のものだ。
ジャポネでは鬼門の神というものが、おるじゃろう?…それはわしだ。
すべての神々から葬り去られたあげくに、隠蔽されて、隠された神じゃ。
その昔は、比類ないわしの力の強さ、約束の固さ、大いなる豊かさの故、豊饒の神として、崇められたが、神々の嫉妬から、このアフリカの大地に隠蔽され、汚濁と腐りの祟り神となった。」
ボープラの、弩級の低い声が暗闇の大地に唸るように響いた。

No.158

ボープラは巨体を揺るがせながらテルたちの目の前まで来た。
テルは何か喋ろうとしたが、上ずって声がまったく出なかった。
「ジャポネーズ、わしが怖いか?
…テジャンの木琴を最後に聴いてから何十年になるな。
わしはとくに「ブラックスタア」がお気に入りなのを知っておるのに、
テジャンは、あれから弾かない。」
ボープラの周りから連続して火柱と爆発が起こった。
しかし、すぐにボープラは冷静さを取り戻して続けた。
「まったく頑固な男だ。
そのキンキルシの皮袋にひどい目に合わされたからだろう。
その袋は、木琴が大好きだぞ。
ひひ、木琴弾きも大好きだ。食べてしまいたいほど好きなのだ。

そこにジャポネ、お前の持つ、その「ブラックスタア」の玉を入れてみろ、すべてが分かろう。
ああ、まてまて、その時には、もちろん生演奏で「ブラックスタア」が不可欠だ。
テジャンほどの木琴弾きでないと、その袋に取り殺されるやもしれん。
わしがキンキルシの皮袋に取り成してやる。
…キンキルシの袋よ!聞こえるか?この青年もいい匂いのかわいいやつだ、捨てたものじゃない。」
ボープラは袋に向かって声を潜めてつぶやくように言った。

「サア、青年!弾いてみるがよかろう、この難解な名曲を!
君の人生の最後にならんようにな、
命が欲しいなら難曲の裏表一部たりとも間違えずに弾いてみなさい。」

No.159

突然黒光りする木琴がココの目の前に出現した!
ココは天空を見上げて体の力を抜いた。
左右の腕が違うリズムとテンポを同時に弾くには、限りない日々の積み重ねがいるのはもちろんのことだが、曲はそれでも一体になっている。
肝心なことは「ブラックスタア」のあらゆるトリックの穴を排しそれ自体に囚われないことだ。全神経を研ぎ澄まし、ばらばらになったものの統一をとる。
あたかも、通い慣れた山道を、真っ暗な中、全力疾走で駆け下りる、そのものだ!
これこそが、ココが修練してきたものだ!
冷静さと情熱が渦を巻いて、ココは興奮して木琴の前に座った。

「さあ、青年!ブラックスタアの輝きを見せてみろ!」
ボープラの声が周囲に銅鑼のように響き渡った。すると大勢のゾンビも怒涛のごとく地獄の雄叫びを上げた。
追われるものが、滑るように歩き始めるがごとくのテンポで、ココの「ブラックスタア」は始まった。

No.160

大きく振り下ろしたビーターの、木琴の鍵盤の下の大瓢箪がぎゅーんぎゅーんと唸った。
あらゆる響きが共鳴を始め、ココは臨戦態勢に入った。
「ブラックスタア」は歩くようなテンポから始まるのである。
初っ端、左手の低音部の短いイントロテーマを数度繰り返すうちに、右手は歩くような同テンポでにぶいリズムを打ち、追随する。
その追随した最後の足音を軸に、曲は突然静かに本テーマに突入する。
気づかないまま左手が、歩きのテンポをチェンジし維持している。
そのとき右手は間髪を入れず、すでに高音部のメロディテーマに突入して三倍速になっていた。

驚くべきことに、周囲の景色が逆回しの高速フィルムのように流れ始めた!
ココは一心不乱に木琴を弾いていた。
それはまるで、列車がブレーキもかけず目の当たりを高速で通過する感覚だ。
そして、そのすべてがオーロラ現象のように大きく揺らぎながら、その一端が凝縮するようにキンキルシの皮袋へと流れ込んでいる?
「ジャポネよ、その玉をキンキルシの袋に投げ入れるがよかろう!」
どでかい皺だらけのボープラの顔が、目の前で怒鳴った。
テルは躊躇しながらも、手に握った「ブラックスタア」の黒光りする玉を、投球するように袋に投げ込んだ。

ココの弾く木琴のベース部がイントロテーマに戻った瞬間、左はそのままで、右手だけがまったく違う拍子の別のメロディテーマを歌い始めた。ココはもう呼びかけても分からないほど夢中であった。

テルが突然驚愕の声を上げた。

No.161

どこで曲が間違おうが、まったく他人には分かりようが無いほどのこの曲を、併奏して弾くものがいる?見事な、今まで聞いたことのない爆発的なアンサンブルとなっている。
それも鼻歌まじりのように軽い?「ブラックスタア」はもともとが、二台の木琴の曲であったのだ!その補い合いが欠けたところを埋め、本来の曲の全貌が明らかになった。

ぐるぐると回り始めていた天体は、真の闇として静寂を極めた。
言葉で表現ができようもないこの漆黒の闇は、「玄」そのものであった。
展開されたこの世界も、原初、闇から始まった事を物語っていた。
実に見事なこの曲、もう一つの木琴は一体どこから聞こえてくるのか?
背中だ!ココは愕然とした。自分の背負うキンキルシの皮袋の中からであった!

コントンボリは、先ほどから茫然として成り行きを眺めていた。
祟り神ボープラが泣いているのだ。
じんわりと涙ぐみ、ついには感極まり、ボープラはおんおんと泣いた。
滂沱の涙は、巨体を伝わり、ゴミや汚わいに沁みていった。
つもりつもった恨みと、憎しみ、呪い、がとろけ、涙とともに沁みていった。

祟る神は、二台の木琴の作りえる闇の静寂に揺り動かされ、初めて祟りからみずからを取り戻したのだ。このボープラこそが、キンキルシの袋を開放できる唯一の神であった。

キンキルシの皮袋に囚われていたのは、なんと原初の祖霊でありテジャンの半身であった。
出てきたテジャンの半身は、天頂に茫洋たる真の闇を湛えていた。
ココは、演奏を止め、テジャンに飛びついた。

ブラックスタア…。
真の闇であり、輝きであり、知りえぬもの。
テルは呆けた顔で笑ってテジャンをどついた。

天頂の惑星 完

「天頂の惑星」あとがき


リトルアクラ通信「天頂の惑星」を脱稿した。
この小説は私の書いたものでは、一番長い連載だったと思う。
たしか、3年以上になったかも知れない。(注 初回は2005年11月 4日 )
この話のバックボーンとなるのは、祖父、父、子、からなるばらばらな話を、それぞれの行動と、価値感と、荒唐無稽さ、の中につないだ事だ。

いわば、自分存在のおおもとで有りながら、はっきり知りえない自分の父親や、祖父の、生きた内的世界というのはどうだったのだろう?という素朴な疑問から端を発したものが、隠されたテーマである。
人の人生は同じではない。しかし、家族というのは、もっと身近な人として、部族、民族、の最も近い先祖でもある。
その内的世界の系譜というものに、脈絡というものが在るものか無いものなのか…。
歴史的な事実の外側からは、テーマと成りえないむちゃくちゃなものだが、
私としては、荒唐無稽なるものの新骨頂でもある。

「天頂の惑星」というタイトルは占星術用語でもある。出生時天頂に在る星は、その人間の運命的な天職、忌避を読み取らせることも可能だ。
ヘッセの「ガラス玉演戯」という作品に、盤上のガラス玉に思索と瞑想を凝らす部分が出てくるが、このヘッセ同様に、この物語にも重要なストーリーの顛末に、玉、が出てくる。
しかも、ここではそれは、祖父、父、子、といえども同じようで同じで無く、各人各様であるのである。
いずれにしても、読者諸氏、長きに渡るこの物語にお付き合願えた事を、ここに感謝する次第であります。

平成二十年一月十六日
チャンシー  

昨年7月に木琴の師であるカクラバ・ロビ氏が亡くなりました。
カクラバは、この物語の「ブラックスタア」にも登場するテジャンのモデルです。
カクラバの現地ガーナでの葬儀に、急遽、参列してお弔いをして参りました。
その時のことも織り交ぜながら、「ブラックスタア」は進行しました。
ボープラ、コントンボリなどの神さんの、元になる話しも、すべてカクラバから以前に聞いた話を、私なりにアレンジしたものです。
生前カクラバが口にしていた「この木琴の音楽は私のモノではない、先祖からのものなのだよ。」
このことは、前にも記したとおり、この物語の屋台骨になっております。
物語の最後に登場する半身のテジャンとは、綿々と続くわれわれの祖先のことなのです。

アフリカを想う時に、どうしても人類の発祥を思わずにはおれません。
へたな文明批判はしたくありませんが、
現代に生きるわれわれは、果たしてこれでホントに良いのか?という問いを、半身に真顔で問い直さなければならない時期に来ているのではないのでしょうか。
キンキルシの皮袋に食いつくされる前にも…。

 

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