2002/12/15 Sun |
空は満天の星が輝いていた。漆黒の中の輝き達はゆらめきながら地上に舞い降りた。 「ヨロスィ...。」 |
2002/12/16 Mon |
気の遠くなる日がな一日...、長い間のランダムなくり返しが、やがてあるゆらぎになり、くり返しにどことなくリズムのようなものが生じていた。しかしまだ太古の海は豊穣なまどろみの中にあった。 呪文のような言葉が突如としてすべてを震撼させた! |
2002/12/16 Mon |
海の中ではサンゴがリズミカルに産卵をくり返し、生まれたばかりの無数の微生物達は剪毛を振って元気に泳ぎ回っていた。太古の海にはあらゆる“いのち”の明るいリズムが発生していた。 「ココ、何処だべ?!」 |
2002/12/16 Mon |
見上げた空にはキラキラと何かが煌めいていた。イカの群れがサーッと音をたてるようにパンロゴを通過した。 パンロゴがリズムを湧かせると、銀のイカの群れはそれに合わせて見事に群れのダンスを踊った。地をはうエビもユーモラスなバックステップをきめたりした。 |
2002/12/17 Tue |
突然パンロゴは自分のからだから、今まで味わったことのない力強いビートがたたきだされている感覚で、なが〜いながいとてつもなく長い眠りから呼び戻されるように目覚めた! 「オラ、パンロゴだ!」 |
2002/12/17 Tue |
苦難、悲哀、厄災の3精霊がその姿を現わし、狂ったようにパンロゴを打ったのだ! 凄まじいビートが飛び散り、ありとあらゆるものに突き刺さった...。獣は逃げまどい、花は閉じ、鳥は巣に籠った。 ...たたき続けた49日間、天の底が抜けたように降り続けた雨は、50日目の朝に黄金の雨に変わった。 |
2002/12/18 Wed |
いつの間にか3人の精霊は消えていた。金色に輝く朝の大気はまだ乱雲を残し、漠然とした予感に満ちていた。世界が覚醒したようだった...。 浜辺の稜線には一台の太鼓、パンロゴのシルエットが立っていた。 パンロゴの無垢な空間から、あれほどの激しく、荒々しく、激怒した深いビートが打ち出された事がまったく不思議だった。 |
2002/12/20 Fri |
海岸線のパノラマを、乱雲は音も無く流れた。 パンロゴは独り言を言った。 「音がないというのは、ただ“音”がないだけだべ!...“無音”にある膨大なエネルギーはどうするだべ?!」 パンロゴは、続けて独り言を言って大きくうなずいた。 |
2002/12/22 Sun |
そのころベルをかき鳴らし歌いながら巷を行く男があった。名をオブロニと言った。オブロニは片側の足が悪くヒョッコリ、ヒョッコリと軽く跛をひいて歩いた。木の棒でガンガンとやれ鉦を打ならし、行くとこ行くとこ訳知りの行者やえらそうな振る舞いで説法する修行者を見つけると、片っ端から問答を浴びせかけ、応じるや否や持ち前のキレでやりこめていた。その腕のみごとさといったら、スキッと胸のすくこと実に鹿の華麗さと俊敏さを、目の当たりにした心持ちがした。そしてその打鉦の腹から響く力強さと言ったらなかった。 |
2002/12/23 Mon |
オブロニは今日も街角をビビリまくる音のやれ鉦で大声で歌を唄いながら歩いていた。するとやおら角からぬっと太鼓に出くわした? オブロニはパンロゴの真ん前で穴の開くほどパンロゴを見て言った。 パンロゴが答えた。 「なるほど!なかなかできるな!」 オブロニが言った。 「貴様、さては太鼓の妖怪か?ならばオレが成仏させてやる。これに答えろ! 金剛力士のような顔のオブロニが 瞬きもせずパンロゴを直視して言った。 パンロゴが言った。 「ヨロスィ。」 通りすがりに、山高帽の紳士が言ったような気がした...。 |
2002/12/24 Tue |
「貴様、何処から来た?」 オブロニがパンロゴに聞いた。 パンロゴが答えた。 オブロニが言った。 パンロゴが言った。 |
2002/12/25 Wed |
そのころ、ジェンネの町は塔が立ち並び市が立ち、人があちらもこちらからも集まっていた。民族の衣装も鮮やかに異国の風情に溢れた大勢の女たちがそぞろ歩き、町のうつくしさをひときわ際立たせていた。 あるときパンロゴは街角で太鼓を鳴らし続けていた。すると、丁度人垣の中から小柄な男が躍り出てダンスを踊り、宙返りを打った。おもしろいことに一回転するごとに地に真っ赤なチューリップに似た花が出る。人垣からはどよめきの声が起った。 その男の顔は小鬼のように醜かった。...しかし、宙を舞う一瞬だけなんともうつくしい顔が覗いた。 |
2002/12/26 Thu |
「美しい!あの男の醜さはあの一瞬にすべて反転する...。まったく油断できん!」 今迄脇で見ていた剛毛髭顔の若い男が言った。 「それにあの花は何だ?」 男が続けて言った。 「まあ見てなよ。今日やるかどうかね...。」 頭に果物を満載し、見物してた女が答えた。 そう言うや醜い男はあっと言う間もなく人込みにまぎれ消えた。 |
2002/12/28 Sat |
次の日も男は現われた。棺桶を引き摺り現われ、それをお立ち台にして踊り、宙返りをした。すると昨日と同じに、今度は白いユリのような花が出た。 「む!うつくしい!本物のユリだ...。なんてうつくしいんだ...。あの醜い小鬼のような男が?!...一体どうしたというんだろう?!この刹那のうつくしさは何なのだろう?!むむ、...それに今日は、何かもっと見れるのか...?!」 男が唾を呑み込みつぶやいた。 「え?オサラバって?死ぬのか?!ここで?」 男は話に割り込んだ。 |
2003/01/02 Thu |
かたずを呑んでみまもる人垣に向かって醜い男が言った。 「今日もやらん!又だ。」 こう言うと、今度もひとごみに紛れかき消えてしまった。 「今日はやらん。」 と言い残してどこかにいなくなった。 「はは、オレの衣もそろそろひっぺがすときが来たな。」 |
2003/01/02 Thu |
このことがジェンネの町では大評判になり、その棺桶は人の行き交う通りの真ん中にそのまま置かれた。それを覗き込んだ 通りがかりの山高帽の紳士が言った 「ヨロスィ。」 |
2003/01/03 Fri |
パンロゴは、あるとき8層からなる塔の下に腰掛け、ひとり太鼓打っていた。 「なんてこったな!いったいやつらはどこ見ておるんじゃ。」 老婆が吐いて捨てるように言った。 |
2003/01/07 Tue |
次の日も老婆は現われた。またもや塔を見上げ動かない。 「この塔に何もおかしいとこなぞないぞ。...塔の類い稀な美しさがわからんとみえる。」 老婆が言った。 「婆、何を見ておる?」 オブロニが老婆に尋ねた。 「....。わからんか?」 老婆が答えた。 「む...少しはできるか!...しかし中身をどうする?」 オブロニが言った。 「ワシは明日の朝また来るぞ。」 老婆はさっさと立ち去ってしまった。 「う〜む!婆は油断できん!」 オブロニは向き直ると再び真直ぐ向こうに見えなくなった。 |
2003/01/08 Wed |
ある日パンロゴは、川の渡し近くの1軒のわらぶきの家を囲み、大勢の人が大騒ぎしているのを見た。 「こどもが人質さ!あすこに男が立てこもってさ!」 一斉に喋った声はただの喧噪と化した。 |
2003/01/08 Wed |
パンロゴが様子を伺ってると、男衆の中から長老のような男が言った。 「お前さん、行くのか?...男は用心深いやつで、中から姿を見せんが殺気立っておるぞ...!ほれ...、わめき声が聞こえるじゃろう。...不用意に近づけば子供がやられる!」 「ここは...オレに...、任せてくれ。」 と言いながら、服を脱いで上半身裸になった。 |
2003/01/09 Thu |
アジャは持っていたビンから液体を2〜3滴地面に垂らし、しばらく見つめていた。近所の女にライスボールをつくらせると、すぐさまそれをもって小屋の入り口付近に立ち、言った。 「寄るな!そのままそこに置け!変なまねするな、このガキの命はないぞ!」 刀の先が闇の中で光った。 アジャは入り口の土間にライスボールの皿を降ろした。 |
2003/01/10 Fri |
子供はすぐさま親の手に渡った。どしゃぶりの雨とともに混乱と罵声の怒濤がおしよせた。 「おまえ、この場で土下座して心をあらためろ!...それともあの世が見てみたいか?!」 男の腕をねじり上げたままアジャが言った。 男は減らず口をたたいた。 「おもしろい。おまえにチャンスをやろう!チュイアナー(忍耐)がいかに大事か知るべきだ。」 アジャは男の腕を放した。 「ペッ!ばかやろうめ!てめえで墓を堀やがった!」 男が唾をはきながら言った。 |
2003/01/14 Tue |
男はアジャに向け何度も切り掛かるが、刀のほうからアジャを避けてしまう? 「てめえ!変な術使いやがってきたねえぞ!?まともに勝負ろ!」 男は動転して叫んだ。 「ぐはは!呆れかえるな、...お前の刀に聞いてみろ。その刀はおれを切るのを嫌がってるぞ...。ひはは。ははは、笑い死んじまう!げはは。...どうするんだ?」 アジャは腹を押さえながら大笑いして言った。 アジャはその辺に転がっていた棒を拾い上げ言った。 「そこに座れ!お前の悪業に引導を渡してやるぞ!」 アジャは男の背に金剛の槌をおもいきって食らわせた! |
2003/01/15 Wed |
男はアジャの棒を食らい自然に涙が出て来た。まったく予期しない、自分の生まれついてから今日までの歪んだ気持ちが次々と寸分の過ちもなく目の前に立ち現れたのだ。 男はどしゃぶりの中、アジャに心底土下座した。 |
2003/01/20 Mon |
ある村の入り口の木陰でパンロゴが休んでいると、遠くにドラムの音が鳴り響き、こちらに王の告知をする行列がやって来た。 「われとおもうものは〜、下賤を問わな〜い!村はずれに在〜る池の大なまずを〜、瓢箪で捕らえた者に〜過料の褒美をあたえる〜。」 てなことを喋っている。 パンロゴが腕まくらを上げた。 |
2003/01/21 Tue |
パンロゴがその池に行ってみると、4〜5人の男達が瓢箪片手に池をじっと見つめている。その周囲を女、子供や老人などが大騒ぎではやし立ている。 男が及び腰で池に入った。 「あんた!そこそこ!右だよ右!このまぬけ〜!しっかりおしよ!」 おかみさんが頭に果物をのせたまま指図してどなってる。 力士のような筋肉の男がそれを見て言った。 |
2003/01/22 Wed |
力士のような男も、おもしろ半分瓢箪を持ったが、これがなかなか生半可では行かない。 力士のような男は、池の真ん中で仁王立ちになって大笑いした。 |
2003/01/23 Thu |
ひとしきり賑わうと、池はまた元の静寂を取り戻した。澄んだ水面に木々の明るい陰が写り込み、その中をナマズの陰がゆっくり動いて見えた。 坊主頭の上半身裸の男が言った。 伸び放題に髭をのばした小柄な男が、池を見据え杖に顎を乗せたまま言った。 利発そうなこどもが言った。 |
2003/01/28 Tue |
ふと気がつくと、その時間がゆるやかに金色を帯びてただただ輝くように在った。再び池に鳥の声が一声するどく鳴り渡った。 「う〜む、王の問答は...、答えは問題ではないな...。」 男にはその鳴き声が 「YOROSUI!!」 と響き渡ったように思えた。 |
2003/01/28 Tue |
「ナマズはゆうゆうとそこにあり、逃げようともしない。人もまた同様、瓢箪をもって無駄に追い回したりしないものだ。」 ゆっくりと力士のような男は立ち上がり、大きく伸びをすると瓢箪をそこに置いて立ち去った。 |
2003/01/29 Wed |
あるときパンロゴは原野で日暮れて、焚き火で野宿をしてた。深夜に目覚め、ふと空を見上げた。 「なんだべ?」 |
2003/01/31 Fri |
ぼーっとした輝きが、呼吸するように強くなったかと思うと弱くなった。 同じ道を戻り、再びその原野で野宿したときにも、又もやパンロゴは夜半に目覚め、同じものを見た。 はなしはそれだけなのだ。 世の中には、まったくそれ以上の展開のない事だが、異常にいつまでも印象に残る事があるものだと、ついさきほど前知り合いになった山高帽の紳士と焚き火を脇に、半分眠りながらパンロゴは思った。 |
2003/02/04 Tue |
パンロゴは、あるとき大樹の緑陰で正午の日ざしを避け涼んでいた。鳥もさえずらない暑さに、時間は停まったような様相を呈していた。 そのさ中、近くの雨つゆをしのぐだけのあばら家で、独りもくもくと大きな材を刻む男がいた。周囲には、男のたてるノミの音だけがコンコンとリズミカルに響いた。 そこに、歳の頃とうに百歳を越えるほどにヨボついた男が、杖にすがり蝸牛のように驚くほどゆっくりゆっくりとやって来た。 それは何処から見ても人間とは思われないほどに、しわしわの印象をあたえた。 ヨボついた男は、しばらくじっと男のノミを振るう姿を見ていた。 |
2003/02/05 Wed |
「お若いの....、精が出るのう〜。」 ヨレた男がしわしわのしゃがれ声で言った。 ノミを振るう男は手を止めずに言った。 ヨレた男が言った。 |
2003/02/06 Thu |
「いったいどんな生だ?...それほどの歳を生きるってのは?...今でこそ何だが、...俺は随分と自分の運命を呪って苦しんだよ....。だから、...これだけは、仕上げたいんだ...。」 響き渡るノミの音と男の朗々とした声が、低い屋根に木霊して交互に喋ってるように聞こえた。 恐ろしくしわがれた声でヨレた男が喋った。その声は不思議にも異様にはっきり聞こえた。 |
2003/02/06 Thu |
男は、はっとした。3日だろうが今だろうが、変わりがあろうか?...時間のない事への焦りが、材の命を取り出せないでいる自分に気がついた!この材も7〜8百年は立っている...。 「俺には、生きている内に仕上げたいという、己の願望しかそこになかったか...?!」 ノミの音が一瞬止んだ。 |
2003/02/12 Wed |
男は、はじめて泉のように湧き上がってくる何かで満たされ、一杯になった。 しばらくそこに、呆然とノミを構えたままの姿勢でいたが、再び無駄のない的確な腕の筋肉がノミを力強く振いはじめていた。 男には見えていたのだった...、材のあちらこちらがここを彫れと言わんがばかりに輝きはじめていたのを。 |
2003/02/13 Thu |
「コン、コン、コン」 というリズミカルなノミの音一打ち一打ちが、緑陰でうたた寝をしてるパンロゴには 「YO RO SU I !!!」 と聞こえた。 |
2003/02/17 Mon |
ふたたびパンロゴがこの地を通りかかったとき、そこには材を刻む男の姿も、あばら家もなく青々と草ばかりが勢いよく在った。 パンロゴは尋ねてみた。 老婆は異様な彫刻物を見上げ淡々と喋り続けた。 |
2003/02/18 Tue |
あるとき、パンロゴは街道の辻又にあるいっぽんの大きな木の下で、旅の男と共に午後の熱さを避け休んでいた。 口笛をやめ耳をそばだてると、遠くから何かの気配がして鳥が騒ぎはじめた。 にわかに人通りが増してきたかと思うや、怒濤のような足音に歓声がとうとう辻に近づいた。 若い女の半裸の集団が狂ったように笑いと叫びを上げ乱舞しながらやって来た。 |
2003/02/20 Thu |
旅の男がパンロゴに囁きかけるように言った。 パンロゴは男に聞き返した。 「とにかくちょっと隠れまひょ。」 男は幹の陰に移動してパンロゴを手招いた。 男が集団を見据えたまま言った。 |
2003/02/20 Thu |
この100人を上まわる踊り狂う半裸の乙女の集団の回りを、もう一回りの野次馬やら、無宿人やらが取り巻き、近くの見物人やら、年寄り、子供がそのまた前後を取り巻いて、狂気乱舞してぐんぐん進む様は異様な進み方をした。 誰かが遠くで大声で叫んだ。 男が怒鳴った。 |
2003/02/21 Fri |
木に登るとそこには先客がいた。 「...分かるか?この衆にはリーダーがいない。つまりだ、これは神意なんだな。」 パンロゴが下を眺め言った。 |
2003/02/26 Wed |
「これを見ちまうと、個々のちっぽけな寄る辺ない人間の生というのも、なかなかどうして分からんモノだな、...と思うよ。 ギョロっと目をこちらに向け赤いチーフの男が叫んだ。 パンロゴは我が目を疑った。 |
2003/02/27 Thu |
男達が木の上から陰を避けて頭を左右すると、乙女の集団の隙間からチラチラ白いモノがのぞくのが見えた...。牛は見る間に引きちぎられ、バラバラにされ骨だけになっていたのだ?! 赤いチーフの男は目をギョロギョロ浮かせ叫んだ。 木に居た男達はどどっと下にかけ降り、たちまち群衆に消えていった。 |
2003/02/28 Fri |
木の上には、パンロゴ、チーフを巻いた男、山高帽の紳士、の3人が残って下の様子を眺めていた。 「見てろよ...、この群衆は2日、3日と50人増え100人増え、10日もすると先から最後尾まで見渡せない程に大きくなるぞ。...するとどうなると思う?...合流するのさ!...コレが不思議な事に発生したのはここだけじゃないんだ!もう“抜ける”のは乙女だけじゃなくなってる。もうなんもかも置きっぱなし、投げっぱなしで皆入ってくるんだ!」 パンロゴが男に聞いた。 「それは俺にも分らん...。」 チーフを巻いた男は目を閉じて言った。 山高帽の紳士が言った。 |
2003/03/03 Mon |
「“何処”という場所はないよ...。ホッ、ホッ、ホッ、“何故”も、“如何して”というのも、無いんじゃ...。つまり人間の頭の考えを超えとるんじゃの〜、ホッ、ホッ、。...コノ出来事は、考えや予想は役に立たんのじゃ〜。よろすぃ〜。」 山高帽の紳士が笑ってゆっくりゆっくり髭をなでながら言った。 パンロゴはしらけきった。 |
2003/03/04 Tue |
「...先を考えるから不安が起こるってことか...?なるほど。何も考えない!...つまり、“抜ける”ってのは、明日のために思い煩うをやめちまうんだな? はは〜っ...、そうか!この大きな衆生に、...小さな自分を全部委ねちまうのか...。こいつは発見だ!」 ギョロとした目を群集に向けたままチーフの男が言った。 パンロゴは元より何も考えてはいなかった。 声はしたが紳士の姿はそこに無かった。 |
2003/03/05 Wed |
“抜け参り”はその後もとどまるところを知らず猛威をふるい、通過した村々はすべて無人と化した。 ある時眠りから覚め一斉に咲く竹林の花のように、異変とその後の変化は、まさに、破壊と闇の神の降臨と開花を思わせた。 |
2003/03/07 Fri |
パンロゴはあるとき峠道を独り下っていた。遠く、パノラマに広がる眼下には荒涼とした下界が開け、広大な森や曲がりくねった川がうそのように小さく見えた。 その峠はホースバックと呼ばれていた。山のひんやりした空気がパンロゴを撫でた。 |
2003/03/10 Mon |
そこでパンロゴは不思議な光景を目にした。 パンロゴはしばらく目を凝らし見ていた。 |
2003/03/12 Wed |
遥かな眺望の中、下方に牧童と山羊の群れの一団がゴマの粒のように横切っていた。起き上がった男は、必死でその一団によろつきながらも追いついた。 牧童の男が、行き倒れた男の顔をまじまじと見て言った。 |
2003/03/14 Fri |
「...私はある時迄国の王子だった...。しかし思いもよらぬ家臣の裏切りに合い追放されたのだ。その時に命と引替えに目を潰され、指を切られた...。」 男は水で一息つくと、その牧童に涙を溜め語りはじめた。 「う、う...、只々その不誠実と裏切りに対する復讐のために、私は今日迄、死を生に変えどのようにしても生延びてきたのだ...。」 男が嗚咽をこらえて言った。 男は喋り続けた。 |
2003/03/24 Mon |
「それと同時に自分の前世というものがはっきり目前に見えた...。 遠い目つきで男はうわ言のように一気に喋ったあと、ゴクリ、と水を飲み下した。 |
2003/03/27 Thu |
男の飲む水に引かれて山羊がヌーと顔を出し、男と山羊の顔が向かい合った。 「今日はまったく不思議なことが重なる...。その石なら知ってる...。今朝方会った山高帽の男が見せてくれた。」 |
2003/04/01 Tue |
「その石といったら今まで見たことのない、かぎりなく明るいと思えば、深く湧き出るように変わる不思議な色合いで、どんなに見ても見飽きることがなかった。...なんだか、...俺を不思議な気持ちにさせたな。...きっとその石に違いない...。」 牧童がボソっと言った。 |
2003/04/02 Wed |
「みじめさと神への裏切りが、私の歩いてきた道だったのです...! 男の顔には不思議な金色の光が漂っていた。その笑みは深い謎を称えていた。 |
2003/04/04 Fri |
それだけ言うと男は、牧童に深々と一礼しフラリと立ち上がった。杖を自分の進む方向の空に突き出し突き出し、よろけながら、ころびそうになりながらも、心そのものは何かを見据えるような格好でホースバックの峠道を下って行った。 |
2003/04/08 Tue |
開かれぬままに謎の生をいきる男...。 不思議なエメラルド色を発する石に、一瞬反射した光景が男の生そのものだったのか...? 男はみじめさと裏切りの生そのものの中に、捉え得ない貫く輝きを見たのだろうか? すべては“馬の背”に展開したパノラマの点景だった。 “YOROSUI"おわり |