天頂の惑星


第二部

No.69 
 海に面した南の丘陵は、なだらかに下ると、そこからは断崖になり、大きな弓なりの湾に連なっていた...。
その丘陵の中央付近に、一本の松の巨木は在った。
木はおよそ考えられない程古くから其処に在った。
遠く湾を一望できるその位置は、人間の時間の流れとは、まったく無関係で、
その巨大な幹は、醜く朽ちて風化しながらも、新たな青々とした枝葉を天空に差し伸べ、
何者にもめげず、天地への挑戦そのものの様に立っていた。
海から常に吹き上げる強い風は、大きく松の姿勢を変型させながらも、威風堂々とし、まるで、
奇怪な怪物が天にそのまま挑戦をするために立ち上がったかの姿をしていた。
一体、いままで、どれ程の太陽の光りと、夜空の星辰とが、この大樹に降り注がれたのだろうか?
巌は、深夜深い眠りから覚めた。
No.70
巌は、横になり、闇に目を明けたまま、今見た夢...、いや、夢と云うには、あまりにもリアルなものに、考えを廻らせていた。
その巨木と、自分との関係を考えてみた。
..どこにも、考えうる限りつながりは無かった。
その松の巨木をどこかで見た記憶なども全く無かった。
しかし、なぜか自分の夢自体に、不意をくらった様な感じがした...。
何か、とても重要な事を直感させられたと思ったのだ!
祖父が亡くなってから漠然と巌のテーマで有った、“自分のこの世でなし得る事”を、
巌は今までの身辺に起ったレンズの出来事などの経緯から、行動を起すつもりでいたのだ。
それは、巌なりに、“世の役に立つ事”をしながら、自分の身を立てるというものであった。
しかし、巌はショックを受けた!
...あの松の巨木は、そんな役に立つかどうかは、分からない!
むしろ、そんな事は問題外として、全存在を賭けて、総てに挑戦し、反抗していた!
「本当の“いのち”とは、そうなのかも知れないぞ!?」巌は声に出して、闇に言ってしまった。
No.71
驚いた事に、暗闇の深い空間から返事が返ってきた!?
「わっはははは、目が覚めたかね、巌くん!?、
...お前達に分かるか!?これは、人間の教科書には乗っておらんぞ...。」
巌はギョッとして、そのまま闇に目を凝らした。
その声は、遠く小さな声だが、巌にははっきりと聞き取れた。
「お前達人間の命は、..短い...。
“なし得る事”が、分からん内に、もうそこに死が訪れて来てしまう。
一生涯に、すなわち“道とは何か?”学習できる者すら希有だぞ...。
残念な事には...、人間は、本物の“いのち”、の入り口すら知らんのだ...。」
巌は、自分の心に落ち着くように、言い聞かせた。
「誰です?あなたは...?」
「誰か?...名乗る程の者では無いよ。
松に吹く風だ、松風紳士とでもしておこうか。」
巌の耳に、遠い天空を、ごおーっと風が吹き抜ける音が幽かに聞こえた。
No.72
翌日の早朝、巌の家の玄関の戸がおごそかに叩かれた。
開くと、其処には一人の礼服の紳士が立っていた。
「おはよう、巌くん。ところで現在、“ゴルゴンの目玉”二つ...。
巌くん!君の手許に在る。...それを此処へ出したまえ!」
片方だけの眼鏡を、白い手袋の手で恭しくそっと押し上げながら、
ステッキを抱えその紳士は掌を伸ばした。
「え!?あなたは、どなたですか?」
巌は、そのシルクハットと礼服を見比べながら、その紳士に聞いた。
「フフ、おお、そうか!昨夜は顔も見せずに、失礼致した。
...わしは松風、松風紳士だよ。...さあ、出してもらおうか!」
シルクハットの下から、高く赤い鼻が突き出て、白い鬚の中の顔が真っ赤に燃えた!?
巌は、できる限りの冷静さを保って、キッパリ紳士に言った。
「レンズの事ですか?それなら、お見せするだけはできます。今、持って来てお見せしましょうか?
...でも、お譲りする事はできません。祖父の大事な研究の成果で、形見の品です。」
No.73
「ウーム!とにもかくにも、見せてもらおう!」
巌は、持ってきたケースを、松風紳士の目の前でゆっくり開いた。
...鶏卵大の二つのレンズが、柔らかい深緑のベルベットの生地の上に、
まるで、まどろむ様に輝きを巡らして、在った。
松風紳士はおもむろに、片側の手袋を外すと、そこに何か葉の様な物を載せ、
その上にレンズを一つ取り、目薬でも注すかのごとくに中を覗き込んだ?
「むむむ、これは、...凄い!凄いぞ...!!」
しばらく、覗き込んで、夢中になって独り言をはいた。
「...いままで見えんとこまでも、読める...。」
紳士は巌に聞かれたかと、おもわず目を白黒しながら口を押さえた。
「...むむ、巌くん!これにわしは、三億円出そう!
わしに譲ってくれ!三億円小切手をこの場で切る!どうだね?」
No.74
「お断りします。」
「...分かった!それでは、思いきって10億円出す!」
「だめです。」
「...む、30億ではどうだ!?」
「これはお金では、買えないものなのです...。」
「どうしたらいい!?よろしい!60億円!!これでどうだ!?これ以上は無理だよ。」
「...ダメです。お引き取り下さい。」
二人のやり取りに、しばらくの沈黙の緊張が続いた。
松風紳士は、突然懐から拳銃を取り出すと、巌に向けて、言った。
「これではどうだ!?」
「撃つなら、撃ったらどうです!?
僕は、僕なりに覚悟が在ります...。
僕は死んでも、お譲りする訳にはゆきません!!」
...何と言う事だ!?巌自身も、自分の意外な強さに驚いた。
パーン!空に向かって弾が撃たれた!?
「...巌くん!見事だ!!
...ここで、君が、金に負けていたら...、
わしは、君の胸をこのピストルで打ち通すところだった...。
金は、人を惑わす...。金は、コワイぞ...!
今まで...、どれだけ、わしは失望したか!
いや、見事だ!
これは、誰にも売ってはならないものだよ!人間の魂なのだ!
まあ、巌くん、君を試して悪かった。さあ、出かけよう!!」
と、突然に、松風紳士は巌を抱きかかえ、空高く飛び上がった!?
紳士がゆっくり上げた掌をグルっと廻すと、何と、天井を、身体が無視して飛び抜けたのだ!?
空高く、巌はレンズの小さな箱を小脇にしっかり抱えた。
「...しかしだ、
“ゴルゴンの目玉”が揃って此処に在る...。
どんな、生き馬の目を引き抜く様な、トンでもない者共が現れ出るかも知れんな...。」
フンワと、大きな木の頂点まで飛ぶと、パイプを吹かし松風紳士は一服つけ、深く吸い込むと独り言を吐いた。
不思議にも、巌も、手放しで傍らの尖った梢に、雑作も無く立っていた?
No.75
「ははははっ、また遭ったな。小僧!」木の下の方で大声が聞こえた。
小枝の隙間から、上半身裸の坊主頭が見え隠れした。
木の根元に、男が一人座って握飯を食っていた。
「え!?将来行者!?」
巌は、驚きのあまり、体勢を崩して、梢から地上にもんどりうって転げ落ちた。
勢いあまって、箱からは、レンズが転がり落ちた。
二つのレンズは、キラキラと輝きながら、
将来行者の目の前に転がり、ピタリと止まった。
しかし、不思議な事に、巌には怪我ひとつ無かった?!
「これは、ゴルゴンの目玉?しかも、二つ...!!
お前!!こんなものが二つも在るとろくな事にならんぞ!?
今すぐ、捨ててしまえ!?」
行者は、すぐに食いかけの握飯をほおばりると、木のてっぺんを見上げて、何かを見透かす仕種をした。
「見ろ!!そこに何か、もの欲しそうに狙っておる!?
む!
合点がいったぞ!貴様、松風の天狗にそそのかされたか!?」
「おのれ将来行者!わしのじゃまだてすると、只では済まさんぞ!」
梢から一塵の風が吹き降り、
近くの枝に舞い降りて来た松風紳士の姿は、怒髪天を突く天狗そのものに変わっていた。
瞬間、将来行者の姿が消えた?!
No.76
巌は、何かおかしな気配に木を見上げると
木の又の上で、将来行者が、天狗の背後から羽交締めで、ぎゅうぎゅうと締め上げていた。
「松風!...それ程、...貴様の、その下らない欲を充たしたいのか!?」無駄の無い、行者の腕の筋肉がピクリとした...。
バキバキ、ミシ.。
「!!わお!お助け!違うよ、違うよ!
その、何、わしは、...小僧をちょっと、生活指導して上げてたまでだ。
お前に上げるよ!目玉は...。
...ちょっと緩めてよ!...羽が折れちゃうよ!」
二人は、ぐいぐいと木の上で仰け反った。
地面の、転がり出た二つのレンズの輝きに気づくと、鳥が異様に騒ぎだした!?
「松風!
緩めれば、逃げるだろう...。
貴様の、逃げ足の早いのは分かってる。...貴様の大事な団扇をよこせ!」
ミシ、ミシ..。
「ぐわ!!...わ、わかった!渡す!!」
将来行者は、松風天狗から、やすやすと大事な団扇を奪い取ってしまった。
「これは、質草だ。妙な気を起すな。
ところで、貴様この小僧を守護しろ、それまでは俺が預る。」
「小僧!!その目玉二つが揃うと、こうして、おかしなやつらが、
貴様のその“目玉”を狙って次々とやって来る。
捨てるにしても、もう遅いぞ。」
転がり出た二つのレンズ、“ゴルゴンの目玉”が、凄みを帯びて輝きだした!?
No.77
将来行者は、団扇を左に、木の根元に戻ると、残った握飯を拾い上げ、ほうばった。
松風天狗は、大声で独り言をつぶやいた。
「まったく、行者殿の手荒い事...。
団扇が無いと飛ぶ事もできない...。
ああ、わしも、なんとも贅沢に団扇に頼った人生を送っていたのに気づくね。
...風を自由に出来る、凄い特技!?
じゃあ、...出来ない天狗とは何ぞやだ!?
とほほ、...只の紳士か。」天狗は、宙で回転すると、松風紳士の姿に戻った。
木の上から、地上に跳び降りてくると、
ポケットからおもむろにパイプを取り出し、白い口鬚にくわえ、火を着けた。
「いくら人質を取っているとは言っても、わしは、今年で600歳だよ、
...巌くん、年寄りを大事になさいよ。
ああ、夜通し飛んで疲れが一気に出てきたよ。
わしも若くないんだなあ...。
肩がガクガクじゃ。肩揉んで下さらんか?
巌くん、そうそう、ついでだ、鉄瓶でお茶でも沸かして下さらんかのう?
お茶菓子は、名代のまぐそ饅頭でいいよ...。お茶は鉄瓶で沸かさんと、尖っててイカン。」
巌の傍らにのけぞり、松風紳士はゆっくりパイプを燻らせた。
「はははっ、質草取ったとは云え
この男は油断すると、このとうり!
のさばり出したら手に負えんぞ!
...さあ、どうするんだ?小僧!?お手並み拝見といこう!」
将来行者は、握飯を食い終わり、にんまりと巌に微笑んだ。
No.78
「巌くん...、“あれ”は、どうするんじゃい?」
松風紳士は、将来行者の方を気にしながら、
異様に輝く“ゴルゴンの目玉”を、パイプで指して云った。
「二つ転がり出た“ゴルゴンの目玉”は、鳥達のお喋りのもっぱらの話題になってしまってるよ...。
つまりは、と云う事はだ、
“ゴルゴンの目玉”の持ち主は巌くん、君だと!
今どんどん世に知れ渡ってしまっているのじゃないか?!」
「あれは、二つ揃うと、わしら、通人の間でも、
昔から“大吉、大凶、何が起るか分からん”、と云われてる大変なものじゃぞ?」
「...はい。」
「これでは、もはや君は、これを、運命として受け止めねばなるまいな...。
わしにおとなしく渡しておればなあ...。可哀想に!」
「運命...。」
巌は、拾い上げながら異様な光を発する“ゴルゴンの目玉”に、見入る様に云った。
「しかし、こんなものをいつまで持っていると、まったく、どんな事が起るか見当もつかないぞ!?
...経験の少ない若年の君には、ちと荷が重すぎるものではないのかなあ...!?
...内緒で預ってやるぞ!?」
No.79
「おい、貴様!放っておけ!その小僧の問題だ!」将来行者が指をボキボキとさせた。
「けど、今すぐにでも..、...ア、イテテテ....!」
言葉よりも先に、松風紳士の腕が、将来行者にねじ上げられていた。
「分からんやつじゃ!真摯に守護出来んとなれば、この腕へしおるぞ!」
「うわっ!分かりました、分かりました!
...心を入れ替えます!二度と欲しがりません。...どうか、御勘弁を!」
紳士は痛さに涙を浮かべ、鼻水までが垂れた。
「よし!では、小僧、又遭おうぞ!」」
それを機に、将来行者は突然大声で歌い、太鼓を打鳴らし、さっさと何処かへ消えて行ってしまった。
「あぁ、団扇は?...。」松風紳士は小さく呼びかけたが、もう行者は消えていた。
「...まったく、行者のくせに手に負えん乱暴者なんだからの...。」
ねじられた腕を摩りながら、紳士は起き上がった。
「突然なのですが、松風紳士さん、...どうぞ、...これで、ひとまず身体の疲れを癒して下さい。」
木の下の縁台の上には、鉄瓶に入ったお茶と湯飲みに、うまそうな茶饅頭がのっていた?
「...ほんとかいな?!なんともやさしい御主人様じゃ!?
けど、一体どう云う事!?毒でも入ってないかい!?」
「....本当に、どうにも不思議なんですが、拾い上げた時レンズの内に、
何もない此処の木の下に縁台が現れて、
その上に、鉄瓶に入ったお茶と湯飲みに、うまそうな茶饅頭が在るのが見えました。
すると、其処に、それが突如として現れ出たのです!?
僕にも良く分かりませんが、そのときレンズを覗きながら、
あなたの長い疲れが癒えればいいなと思いました。」
「おお、何と云う素直!!巌くん!君はなんという、やさしい心根の持ち主なのだろう!
わしは、この六百年間、そんなに人から優しくされた事など、只の一度も無いぞ!感激だ!!
...ああ、また泣けて来た。
モグモグ、ゴックン、モゴモゴ、ズズズ。」
松風紳士は、腹も減っていたのか、あっという間に茶饅頭を一人で全部平らげてしまった。
紳士は、満足げに茶をすすりながら独り言を云った。
「我ながら、茶饅頭にはまったく目が無い...。」
No.80
晴天の霹靂と云う言葉があるが、...空は晴れ渡っていた。
にも拘わらず、空から気球が落下して来て木に架かった!?
気球は、瞬く間に火を上げた。
そうこうするうちに、まさに突然の気球の爆発で、
目の前の高木が真っ二つに火を吹いて割れたのだ!?
「うわ!?大凶って、こういう事ですか?」巌が、頭を抱えて云った。
その割れた木の室から、火だるまになり転がり出て来た者が在った。
どうやら、その室を、乞食が寝ぐらにしていたらしい。
巌と松風紳士は、咄嗟に乞食の燃える背を叩いて消し止めた。
「阿呆!阿呆!ひとまちがい!ひとまちがい!化バイね髷。」
乞食は何やら訳の分からない事を云ったかと思うと、
泡を吹いて、どうと、その場に倒れてしまった。
「確かに!これは褌を締めてかからんといかんな。」
松風紳士は、あたりの気配を窺うと、急に巌に耳打ちした。
「ところでな、巌くん、君の家の玄関で、
わしは“アレ”で、ある木の葉っぱを覗いたんじゃ!分かるか?」
まったく驚いた!...見えたのじゃ!
これじゃ、この光景...!」
「え?本当ですか?」
「ああ、問題はその後だよ。...きっと、
...この乞食は、懐に紙の束を持っている...。
...其処に、ある大事な事が書かれてあるんじゃ。」

No.81
爆発のショックで、気球の篭は傍らの地面に吹き飛び、
その篭から、人が放り出され生死が不明であった。
巌は、この惨状に己を失いかけたが、
気を取り直すと、二人の男の救出に向かった。
松風紳士は、爆発で燃え上がる中、
泡を吹いて気絶した乞食の懐から、紙の束を取り出し、一枚一枚慎重に眺めてた...。
「おっと!あった!これだ、これだ!これが欲しかった!...巌くん、さらばじゃ!」
あとの束を、乞食の懐に突っ込み戻すと、その場から一目散に走り去った。
「大丈夫ですか!?しっかり!」
巌は、炎と崩落の危険のある処から、二人を安全な場所に引き摺り出し、
交互に、大声で揺すったが反応がない。
「おーい!しっかりしてくださーい!」
巌は、これ以上出ないと云う大声で呼びかけた。
赤地に金色の刺繍の入るきらびやかな軍服を着た、
口の周りに黒鬚を生やす、一人の男に意識が戻ってきた。
男は、キョトンとして傍らに吹き飛んだ丸眼鏡を拾い、巌に云った。
「ヘイ、ボウイ、...ここは何処だ!?」
もう一人の、ターバンを巻いたインド人も、目を開けた。
おかしな事に、傍らに、あの気絶していた乞食の男が駆け寄って、ターバンの中を探りだした!?
「何処!?インド人、...大事な地図、隠してる...!?知ってるぞ。」乞食が怒鳴った。

No.82
意識を取り戻したばかりのインド人と、気絶していた乞食は、
まだ気球が燃え盛るなか、取っ組み合いになった。
「ターバンこんなにしちゃって!カー、なんてやつだ、
カレー食べちゃダメのオマエ誰だい、ふざけるなよー!」
「キャー、ヒトゴロシ!?バカにするな!返せ。
インド人の悪だくみは、分かっているんだー!」
この非力な者同士の掴み合いは、見ているだけでも歯がゆい争いになった。
乞食が繰り出すへろへろパンチを受けても、インド人はと云うと何ともない。
また、インド人の横殴りも、乞食の顔を撫でてる様なもので、くすぐったい。
双方激しく罵るのだが、ワーワーと、何を主張してるかすらも分からない始末?
...ナマケモノの喧嘩とは、斯様なるものかも知れない...。
これに、ごうを煮やした軍服の男が、立ち上がり胸を張って言った。
「エヘン!君たち、決闘も殴り合いも私は好きだが、そんなでは、日が暮れてしまうよ。
ソウ、もうその辺で止めたまえ。この私が話を聞こう。」
No.83
「これだ...。」松風紳士は、目を細めてニンマリした。
それは数枚の地図だった。
何かの位置と、地形と思われる表現が、倍率別に拡大されて数枚に渡っていた。
松風紳士は、誰も居ない処まで逃げた安堵からか、大声で独り言を喋りだした。
「...確かにわしが、あの時に見たモノだ!!
これが分かれば、あのレンズなど、もうわしには用済じゃ!ははは!
わしの目的は、あの“最古の松”だ...。」
独り言は続いた。
「わしは、何もかんも欲しがる下世話者とは訳が違うのだ...。
この歳ともなるとな、モノにこだわらなくなるんじゃ!ホント。わはは!
しかし、...巌くん、君は実に良い青年じゃないか、ダマして多少こころが痛むよ...。
そうだ!見ておれ将来行者め、扇はきっと奪い返すぞ。」
と、今度は、独り笑いをはじめた。
「ふふふ、わははは!!ふははは。
あの乞食が、突然目の前に現れるとは思わなかった。
わしは幸運の女神に、懸想されたかも知れんな!わははは!」
そして紳士は、急に我に帰り、声を潜めて喋った。
「...しかしこの地図が一体何処なのか、見当も付かぬ。」
No.84
「ちょっと待って下さい!訳を聞きますよ!」巌も割って入った。
乞食が、インド人の胸ぐらを掴んで、レロレロの早口で喋りった。
「コイツ!泥棒だ!気を失って入る内に、
俺の、懐に入れてた大事な紙の束、取ったろう?!」
すると、インド人が泡を吹いて言い返した。
「何だと!?それどこじゃないヨ!気球が墜落したんだヨ!?
命からがらダヨ!...インド人だと思ってふざけるなヨ。」
「ふん!うら覚えでも、俺は覚えているさ!
犯人は、お前の様に妙に鼻の高いやつだ、...ちゃんと覚えているんだ!」
乞食が、インド人を見上げて言った。
「え!?...鼻が高い?!...。」
巌は、どさくさの中ですっかり忘れていたが、そう云えば、とうに松風紳士の姿が無かった。
「その無くなった、紙の束って何ですか?」
「....。それなら言えない。...大事なモノだ。」乞食は、下を向いた。
「でも、犯人は、もっと顔が赤くなかったですか?」巌が聞き返した。
「...、そうだナ!?....黒じゃなく赤だった...。」乞食は自信なく巌に言った。
「君!無くなったモノを、はっきり言いたまえ!!
...場合によっては、このサーベルが黙っちゃいないぞ!」
将軍服の男が一歩前に出ると、突然、乞食の頭越しに大声で怒鳴った。
No.85
「へん!いばるない!...俺の趣味の収集物だ。」乞食は、聞こえない様な小声で言い返した。
「おい、男!それは、地図だろう!?古地図の写しだ!?違うか?」
将軍服の男が言った。
「....。」乞食は黙ってしまった。
「私は“冬将軍”だ!
私は、遠く、北の王国より、それを頂きに来たのだ!
気球の操縦を過ってしまったが、...間違いない!羅針盤は正しかった。」
「冬将軍!?」巌は、目を丸くした。
「ウッホホホ、その通り!分かるかな?
...そう言えば、赤ら顔の紳士が、どさくさに紛れ、南方に逃げ去ったのを見たぞ!
ヤツだな!...松風か?!」
No.86
松風紳士にしろ、乞食にしろ、冬将軍にしろ、とどのつまり、何を求めているのかと云えば、
“最古の松”の在り処なのだ?
それぞれの、無謀な希求の仕方から推測するに、その松には、一体どんなに凄いコトがあるのか...!?
...巌には解らなかった。
「何故、そのように“最古の松”にこだわるのですか?」
巌は、冬将軍に聞いた。
「...何!?分からんのか...!?
君は何歳だ?...きっとたかだか20歳とか、その辺だろう?
アッハハ!よかろう、まだまだ、生物の不可思議など分からん歳だ。
御歳5000歳近いであろう松だぞ?
言わば、古代エジプトのピラミッドにもかかわる命だ....。
不老不死の魂の国の...、
おっとと..。余計な事を喋ってしまった。
とにかく生涯、一度は見てみたいとは思わんのかね?
...うむむ、ところで、そうだ!わしを、
ウィンター・マホガニー・ペッパーバード将軍、と呼ぶ事を許すぞ!
...ええと、君は?」
わざとらしく黒くピンと尖った顎鬚を撫でて、将軍は話題を替えた。
「巌と云います。」
「巌?...あ、君が、巌くんか!?」
「ご用心。ご用心。昔から、権力者はまずくなると、すぐ要点をはぐらかすのだ!」
乞食が早口で吐くように言った。
No.87
「あんたは、不老不死研究家のペッパーバード将軍か...。
それなら言うが、
俺の懐から、奪った紙の束は、どうせあのままじゃ役に立たない。
すぐに、奪ったやつは、現れるさ。」乞食の目が、キリリと光った。
「アレは、隕石ガラスの屈折から読み取れたものを、俺が写したモノだ。」
「“隕石ガラス”?」巌が聞き返した。
「俺が、砂漠で、墜落した不思議な飛行士を見た事は...、内緒の話だ...。
俺は、誰にも言ったことは無い。
ペッパーバード将軍に聞きたいのは、“何個の隕石ガラス”が、その時在ったかだ!
あんたは、知ってるはずだ...?
あれは、世界大戦も終わろうとする最中の、ナミビア砂漠での話だ...。
俺の“隕石ガラス”は、軍に没収された。
もっとも、光を透過すると見える不思議な、あの図形は、その時に、からくも書き写したのだ...。
....まだ在るはずだ!
あの時の、“隕石ガラス”は幾つ在ったのだ!?」
ますます、乞食の目は、光を帯びた。
「ふふふ、それなら話が早い!
驚いたな!君は あの時の “砂漠の狐”か?!」将軍の声のトーンが低く変わった。
「その後の研究のかいも無く、あとの二つには、
“天頂の星”しか、解読が出来ない、と書いてあるンダヨ。
...わしが苦労して読めたのはそこまでだ。
奇しくも、君の“隕石ガラス”は、ナチスに奪われたまま、行方知れずだ。」
将軍の顔が、みるみる、見た事のない生き物の顔に変形した。
「“隕石ガラス”は三つか!?」乞食が怒鳴った。
No.88
『乞食男の独白』
あれは、忘れもしない1943年の事だ。
俺は、ある特命で、アフリカ、ナミビアの大地の上を飛んでいた。
二人乗り単発機は、地形と資源の探査飛行中にエンジンが不調になり、砂漠に不時着した。
ショックで、すぐに無線機も故障した。
苦労話は省くが、
捜索を待って3日立ったが、救助機も何も来ない。
在るのは、ほんの僅かなチョコレートと、朝露を溜めた水のみになった。
さすがに此処で、救助を待つのは死を意味していた。
俺は、ある方角を決めて歩き始めたが、磁石も狂ってる事に気がついた。
どれだけ歩いたのか、太陽と砂にへとへとになって座り込むと、誰かが、『こっち、こっち』と呼ぶのだ?
散々、救助の幻覚に悩まされたので、これも幻覚だろうと思ったが、やけくそで、声の方向に行ってみた。
声の主は、奇怪な植物だった。
砂から、いきなり、濃緑の巾広い葉が這い出し、
4,5メートル程ぐるぐる積み上がり、巨大なカルボナーラスパゲティを連想させた。
その根元に近い当りから、可愛い形の、種子の様なものが立ち上がっている。
声はそこから聞こえる...。
後から知ったが、コイツは“奇想天外”という、数千年も砂漠で生きる裸子植物だった。
そいつが言う事には、『すぐそこを、掘りなさい。』、と聞こえて来る?
俺は、幻覚だと思いつつも、何かむちゃくちゃになって、両手で狂ったように其処を掘った。
すると、ジュラルミンのように、白く輝く金属が現れた!?
そこに、難破した、飛行物体が埋もれていた...。
No.89
俺は、機体の覗いている僅かの部分の砂を、必死に取り除いた。
すると、その裸子植物が、“イメージの種子”を、俺に託してきた。
不思議な事に、俺に、あらゆるものがイメージで理解された。
墜落からの出来事が、映像のフラッシュのように、現実の機体にダブったのだ。
それによると、難破してるとはいえ、飛行体の機能は生きているようであった...。
機体が落下してから一万四千五百年経過していた...。
一万四千五百年!?
...中には誰かが、...居る!?
常識を越えている!?幻覚だ!?...。
...俺は、この出来事に骰子を投げていた。
もう、生きても死んでも、ルビコン川を渡っていた...。
恐る恐る機体に触ると、機体がほの明るく輝き始めた?
機体周囲の裸子植物が、力を合わせ、地中に有る機体を、
砂深く根を張るみずからの根で、徐々に地上に送り出してきた!?
この裸子植物は、一体何者なのだろうか!?
“イメージの種子”は又しても、悲しみの、
とある、種族の滅亡を物語るロートを送って来た。
...遭難者?...最後の王朝?、
ある惑星を飛び立つイメージだ!?
女性か!!?
この飛行体の生命体と供に在るのか...?
...俺も泣きたい様な気持ちになった。
とても、一万四千五百年も経過したとは思えない程の、
輝く機体が、眩く目の前にゆっくりと姿を見せ始めた。!?
俺は、幻覚にしても、なんと美しい幻覚だと思った。
ジュラルミンのように白く、滑らかで、美しい飛行体が、砂漠から現れたのだ。
No.90
その流麗な流線形の機体は、飛行船程の大きさだが、
例えるべきものが無い程、美しいフォルムをしていた。
しかし、入り口らしきものが皆無だ?
つるりとして、継ぎ目もリベットも何も無い...。
再び“イメージの種子”のロートが来た。
...隕石ガラス!?
裸子植物の根元?
それを持って、両手を飛行体にかざすのか?
あった!緑色に光を放つ、鶏卵程の透明な物体が、植物の根の中央にはまり込んでいた。
ロートのイメージのままにすると、
飛行体の下部にトビラが切れて、ステップがゆっくりと降りて来た。
エスカレーターか?
俺は、中に入ると、柔らかな自然光の室内にまず驚いた。
何と、庭園だ!?熱帯植物、花が咲き、泉が滾々と涌いている!?
それに、空調の効いた涼しい爽やかな空気だ!?...ここは砂漠だぞ!?
ともかく、...俺は、ゆっくりと泉の水を口に含んだ。ああ、幻覚では無い!!?
生き返った思いだ...。
これが、一万四千五百年も経過した物体の中なのか!?
No91
俺は、ひとまず渇きが落ち着くのを待って、機内の探査を始めた。
...誰かが居るはずだ。
機内の天井、壁面は、空間質の不思議な材質で、
内部空間とは思えない、われわれの知らないもので出来ていた。
そして、全体が外界を半透過するような光で、日中の自然光と見まがう空間照明は、
野外に居るような錯角にとらわれる。
中側からは、まるで巨大な温室だ!?
熱帯植物園風の庭園は、一種の閉じられた孤島の様に、ジオトープ化しているようだ。
昆虫や鳥などは、現在存在する種と、微妙に種類が違っているようだった。
優雅に飛ぶ蝶なども、ブラックライトを浴びたように、異様に光る。
玉虫風な昆虫は、眩い程怪しい光沢を放っている。
ウルトラマリンの、目の覚める色の妖精?!いや、トンボだ。
何故か、回り込むように、人懐っこく舞って来る...?
この飛行体には、操縦席も無ければ、動力装置も無い...!?
驚いた事に、機内の奥までが、この“植物園”のみであった!?
その空間の中心部あたりには、奇怪な植物群がジャングルのように覆い被さり、太古の森のようであった。
そこを抜けると、幾年経ているのか、およその見当すらつかない程の、大樹が在った!?
突然、強烈なロートが飛んで来た!
No.92
「待ちなさい、砂漠の遭難者よ。
この飛行体の主は、先の最後の“金星王朝の姫”です。
今、見る事はかないませんが、
いつか復活の時を待って、ここに眠っておられます。
私は、その守護にあたる、“ゴールデンドラゴン”です。
私に、実体は在りません。
...この飛行体は、当初、安全の為に地球成層圏にありました。
それ程、危険な“兵器”でした...。
ところがある時、“事故”が起り、成層圏に静止停泊している事が出来なくなりました。
そして、何の影響からか、この飛行体に眠っていた、わが“戦士”も目覚め、動きだしました。
地球に降り、消え去ったのです。
“戦士”が降り立つとともに、すぐに、とんでもない破壊がこの惑星に起り、
すべての生き物が、滅亡したかに思えました...。
飛行体は、奇跡的にも姫を救出し、飛行体もろとも、固い冬眠状態に入りました。
...15400年が立ちました。
すべての、滅亡は免れたのかもしれません...。
しかし、そのときの“戦士”は居るはずです、あなた方第二世代の人間たちに混じったのです...。
“ゴルゴーンの眼”とともに。
“ゴルゴーンの眼”は、われわれの英知を集結させた、あるレンズ状物質で、恐るべき兵器です。
今、あなたの手許に在る“隕石ガラス”も、その一つです...。
...大丈夫!ご安心を。
それは、そのままでは、威力は僅かなものです。
二つ揃うところから、兵器の性能を引き出す事が可能です、そして五つ揃うと...、
...今は、詳しく申し上げられませんが、とんでもなく恐ろしい兵器になるのです。
“戦士”は、その兵器を思うように使う事が出来ます。
実は、あなたに、“戦士”と共に地上に消えた、“ゴルゴーンの眼”を探し出して欲しいのです。
あなたの手許に在るものもを除く、残り四つの行方は分かりません。
しかし、“ゴルゴーンの眼”の隕石ガラスは、二つ揃うと反応してきます...。
手許の“隕石ガラス”自体が、他のモノを探してくれるはずです。
これを放って於けば、必ず、大いなる破壊が起きます。」
ロートは、爆発したように、一瞬間に、どっと意味がなだれ込んだ。
No93
俺の持つ隕石ガラスが、突然、警告を発した!?
俺は、何の事か、瞬間にロートで理解出来たのだ?!
急いで外に出ると、飛行体の入り口は固く閉じ、機体の、どこにも継ぎ目が見えなくなった。
ロートのとおり、近くに双発の飛行機が三機着陸してきた。
やっと救助が来たのか!?
いや、ドイツ軍のハーケンクロイツが翼にある...!?
機銃を構えた、数十人の兵士の警護の元、二人の男がこちらにやって来た。
一人は、ドイツ軍の将校、
もう一人は、学者風で、きなりの麻のスーツに、パナマ帽のしゃれ男だった。
...その男こそ、ペッパーバードだ!
俺は、ドイツ軍に救助された格好になり、さんざん尋問されたあげく、
恩着せがましく、その隕石ガラスは没収されたのだ...。
しかし、どうやってもやつらは、飛行体の中に入る事が出来なかった。
どうやら、この事についてヒットラーは、何か秘密を掴んでいたようなのだ...。
本国からの、返還要求も、まったく無いまま、
俺は、その後も、捕虜で無い捕虜として、敗戦までドイツに抑留された、
...俺のコード名は、“砂漠の狐”だ。

No.94
え?何故そこまで、隕石ガラス、及び、松の在り処に、こだわると云うのか!?
...それは、“最古の松”こそが、“戦士”の空白の歴史を知るからだ!
ロートによれば、4500年前のピラミッドの時代に、
五つの“隕石ガラス”は分散し、消息を絶っている。
いたって裸子植物は聡明だが、とくに松は、記憶力が群を抜いている!
その中でも“最古の松”は、人間に混じる“戦士”が誰なのかを記憶している!!
...もちろん、松に、脳などは無いがね...。

『乞食の独白』 終わり

巌のポケットでは、異様な反応が起っていた...。
妙な感じがして、巌は二つのレンズを取り出した。
一つのレンズが緑色に変色して、強烈なエメラルドグリーンに光り始めた。
突然、爆発したかと思う程の輝きをフラッシュさせた!

No.95
『ペッパーバード伯爵の独白』
我輩の、古代ピラミッド研究でやしなわれた、優れた鑑識眼から、
あのとき、遭難者“砂漠の狐”の所持していたレンズ状の石は、
すぐに本物の、“隕石ガラス”の一つと判断した。
これですでに、なんと四つの“隕石ガラス”が姿を現したのだ!
 ------------------------------
当時、我輩はまだ若かったが、大英博物館の特別名誉研究員として、
古代ヒエログラフの特殊解読法に成功していた。
有名な、ツタンカーメン王の首飾りから発見された、
“隕石ガラス”の、光学解析による解読に成功したのだ!
そこには、飛んでもない事が書かれてあった...。
それによると、古代エジプトに“シリウスの戦士”と云う者が居た、とある...。
“シリウスの戦士”は“隕石ガラス”を三つ所持した場合、
大きな土木工事から、予言まで、何でも出来たと云う事だ。
また、生れ変わりを記憶して、魂は復活し、再生したとも云う。
何よりも、我輩のテーマでもある、不老不死の鍵は、
この“シリウスの戦士”研究にあることも、我輩を興奮させた!
“シリウスの戦士”の“隕石ガラス”は全部で五個有ると記述があった。
また、これを“戦士”がすべて手にした時、
あらゆるものを破壊する力を持つ事が出来るであろうと、記述されてあった...。
ヒトラーは、知っていたのだ?!何よりも、これを欲しがっていたのだ!
なぜなら当時、ナチスドイツ総統のヒトラーは、すでに、“隕石ガラス”二個を所有していた!!
ヒトラーのみが“隕石ガラス”が、超弩級の兵器であることを、知っていたのだ!!
それを本来のレベルで使うために、ヒトラーは、
みずからの優秀なヒトラーユーゲントの青少年達から、再び、選びに選び、
それをまた、ふるいにかけ、天才青少年の集団を作り、“超人”養成をもしていたのだ...。
我輩は、ツタンカーメン王の遺跡から発掘した、本物の“隕石ガラス”を偽物に交換して、
その本物をヒトラーに献上した...。
そしてその時、ヒトラーは三個の“隕石ガラス”を手にした事になる!!
...なぜか?
バカめ!!..英国の学士会は、我輩の研究功績を本気で扱おうとせず、
学術的な成果のみならず、“隕石ガラス”の秘密を、あろうことか、鼻で笑いおった!
その成果を、ことごとく“殿様学問”と判断したのだ!!
...学会は我輩に称号を与えた。
...我輩の名誉称号は、なんと“将軍名誉博士”だぞ?!
バカどもめ!世界はもっと危機に瀕しておるのだ!!
恐るべき事に、ヒトラーはついに四個の“隕石ガラス”を手の内に持ったのだ!!
しかし、見ろ!
...おかげで、我輩は、ヒトラー総統から、人種を越えた格別のはからいを受け、
ついに、残り一つの“隕石ガラス”探査の為に、
シャンバラの研究と、現地調査を、礼と豊富な資金をもって依頼されたのだ...。
No.96
四個の“隕石ガラス”を入手しながら、ヒトラーは、なぜ戦争に破れたのか!?
シャンバラが、ヒトラーに、非協力となったからだと言われておる...。
...その当時に、ナチスドイツでは、もう原爆は仕上がる一歩手前までいっていた..。
いや、事実出来上がっていた...。
だが、その使用をシャンバラが止めていた...。
“天使”の出現が待たれたのだ!
しかし、“天使”は出現しなかった。
“天使”とは、もう一個の“隕石ガラス”のことか?それとも“戦士”のことか?
我輩の調査でも、謎は、ますます深まるばかりだった。
シャンバラは、それ以後、現世との入り口を閉じたままだ...。
ヒトラーの死と共に、四個の“隕石ガラス”も、おのずと行方知れずになった...。
シャンバラに“隕石ガラス”の、残りの一個が有ったか、無かったか、
それは、....我輩には答えられない。
我輩は、それから、度胆を抜くような事を知ったのだ!
...日本だ!事は日本に移った!?
アメリカは、日本本土に原爆を投下した。
もはや、当時敗戦色の濃い、日本に、立続けに二発もだ!?
...アメリカの二発の、広島と長崎の原爆投下...、
しかも、そのうちの一つは、なんと!例のナチスドイツが開発したものだ!?
まったく、...なんという事だ!?
シャンバラは、どうしのだ!?
無差別に殺りくする原子兵器を、予告も無しに、実際に使用したのはナチスではなく、アメリカだった!?
この戦争の、真の要因とは何だったのか...!?
ヒロシマとナガサキは、原子爆弾に壊滅し、日本は神性を失った。
以後、これが決定的に世界の仕組みを変えてしまった。
あろう事か、爆心地に“天使”が出現していたのだ!!
誰も彼も焼き尽くす、この世のものとは思われぬ無惨な光景の中に、“天使”が出現した...。
その時“天使”は人類に予言したという...。
これを、アメリカは極秘にして、今日までひた隠している。
『ペッパーバード伯爵の独白』終わり

第三部へ続く

 

戻る